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第172話
「しばらく、抱きしめてもいい?」
ちょっとだけ、辛そうな彼の声。きっと、僕が締め付けてしまっているから痛いんだ。僕はこくこくと2回頷く。相良さんの身体が僕の身体にゆっくりと覆いかぶさった。相良さん汗かいてる。気づけば、僕も前髪を汗で濡らしていた。
僕は相良さんの肩甲骨のあたりに手を回した。そこを静かにさすると、相良さんは僕を抱きしめる手に力を込めてくれた。枕元に顔を埋めているから、ここからじゃ相良さんの表情は見えないけど。
僕はなんとか脱力するために試行錯誤する。行為中だけれど、あかちゃんあざらしのことを思い出した。かわいかったな。少しはリラックスできるかなと思って、頭の中でその子のことを思い浮かべる。
「っあ」
きゅう、とほっぺたをつままれてしまった。相良さんが僕のことを叱るような目つきで見下ろす。
「今、俺以外のこと考えてたでしょ」
「……っ、ごめんなさい」
「っはは」
不機嫌になったかと思えば、今度は声を出して笑っている。ころころ変わる相良さんの態度についていけない。
「どうせ李子くんのことだから、あかちゃんあざらしのことでも考えてたんでしょ」
なんで、ばれちゃうんだろう。
僕はぷい、と視線をそらした。
「中、急に締め付けが弱まったから。助かった」
相良さんは少しはにかみながら言葉を零す。僕はよかったと内心息をつく。
「痛かったら教えて」
ぬぷ、と出入りするものが。僕の中の上部が擦られることで、微細な快感を生む。相良さんとてもゆっくりと動いてくれている。やさしいな。こんなときも。
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