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第176話

 しあわせな、朝だった。    寝ぼけ眼で視界に映るものを見た。くっきりと浮かび上がる鎖骨。その下に盛り上がっている胸板。左の頬にあたる弾力。相良さんの腕が頬の下にある。腕枕してくれてたんだ……頭、重くないかな。腕、痛くないかな。  僕は申し訳なくなってもそもそと動き出す。そうしたら、ごろんと体勢が崩れた。  相良さんが僕の腰の上に乗っかっている。 「おはよう」  手短に挨拶を済ませると、すぐさま僕の耳の中に舌をはわせてきた。あ、れ……なんか相良さんのスイッチ押しちゃったかな。僕はじゅ、じゅと耳を吸われるのに弱い。それをわかっているから、わざと相良さんはやっているんだろう。 「あ……や、やめて……」  僕が弱々しく声を上げると、相良さんはぴたりと動きを止めてくれた。けど、 「ちゃんと昨日教えたこと守って」  再び、耳の奥を犯されてしまう。えっと、なんだっけ……昨夜のことを思い出す。すごくはずかしい。え、と。そっちじゃなくて、する前に話したことで……。  あ。セーフワード。ぴこん、と頭に電球マークが浮かび上がった気がした。 「kitten《キトュン》!」  僕は声を出した。ぴた、と今度こそ相良さんの動きが止まる。ゆっくりと顔を上げた相良さんの顔を覗き見た。

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