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第183話
「俺は李子くんのこと、許してあげたいよ」
さも当然というような顔で、口を開く。
「でも、言ってもいうこときけないなら。ちゃんと教えこんであげなきゃだめでしょう?」
相良さんの踵。ぐりぐりと僕の肩を踏む。手加減のない強さのそれに、僕は息を押し殺して耐える。
「それに」
と、彼は言葉を続けた。
「好きならさ、相手のためになんでもできる気がしない?」
僕の頬をさわさわ、撫でて。言うんだ。その、薄く開いた唇が、呪詛のように言葉を紡ぐ。
「俺がどんなに怒っても、李子くんは俺のこと嫌いにならないよね」
それには、簡単に同意してしまった。そうなのだ。僕は相良さんのことが嫌いになれない。たとえ、こんなことをされたとしても。
「好きっていう気持ちは、言葉だと簡単に嘘をつけるだろう? だから俺は、人の行動を信じてる」
なに、言ってるんだ。この人。
僕は背中がぞわりと波打つのを感じた。
「好きなんだ」
真っ黒な笑顔。笑いじわだけが、ライトの下でよく見える。目の端に影を作って。大好きだったはずのそれが、今は怖くて仕方ない。
「李子くんのことが、大好きだよ」
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