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第184話
頬を撫でる手が不意に止まった。
好きだと言われているのに。嬉しいはずなのに。このざわざわとした気持ちはなんだ。
「大好きだから、君は受け止めてくれるよね」
ぱしん。乾いた、音。
相良さんに頬を引っぱたかれた。輪ゴムを打ち付けられたみたいな鋭い痛みに目が瞬く。
「赤くなっちゃったね」
今度は、なでなで。
なに。これ。
「そんなに震えて。寒いの? 俺があっためてあげるからね」
ふわ、相良さんの香り。僕とおそろいのボディーソープ。嗅ぎなれた、大好きな匂い。背中をすっぽりと覆われて、いつもは安心するはずなのに。
今日は閉じ込められてしまったみたいに、窮屈だ。狭くて、深くて、冷たい。
「俺と一緒なら、大丈夫」
うなじを撫でてくれる手が、大きくて、温かくて。僕はなんだか無性に泣けてきた。
今朝までのやさしい世界は終わってしまったのだと。その事実だけが、僕を見捨ててはくれなかった。
【第一部 完】
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