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第186話

「は〜い! かんぱーい」  こつん、とジョッキを合わせる。2人とも生ビール。冷凍庫で冷やされていたであろうジョッキに口をつけると、ひやりとして肩が跳ねた。金森さんは、おっさんみたいにぐびくびとビールを飲み干している。 「っくは〜ッ」  「うまし!」と一声上げると、にこって僕に笑いかけてくる。ちょっと意外だ。あの、清楚キャラで通っている金森さんが、素を見せてくれてるのかな……だとしたら、すごく嬉しい。ちゃんと友達として接してもらえてる気がするから。 「雛瀬先輩! わたしの華麗な《焼き》を見て、吹っ飛ばないでくださいよーっ」  ボウルに入っているキャベツやらタコやらの具材をじゅうじゅういっている鉄板に乗せる。ヘラで上から軽く押し付け、まあるく形を整えていく金森さん。場を盛り上げるのが上手な子って感じがする。誰からも愛されるような、そんな人。  僕は金森さんが焼いてくれるお好み焼きをぽんやりと見つめた。お好み焼きとか、久しく食べてないや。焦げた匂いが鼻に通る。 「せいやっ」  ヘラを2つ器用に持って、金森さんがお好み焼きをひっくり返す。途端、じゅーって具材の焼ける音。鉄板の上の油が跳ねた。数分して、金森さんがピザを切るみたいにてきぱきとお好み焼きを切り分けていく。僕は静かにお皿を差し出した。こと、と置かれるお好み焼きは、湯気が立っていた。上に乗せたかつお節がゆらゆら揺れる。僕のお腹は正直にくう、と鳴いた。

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