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第195話

 相良さんの上半身を拭き取り終えたところで、相良さんが曖昧な視線で僕を見た。なにか言いたげな、でも、唇は閉じられたまま。 「……俺が寝るまで、隣にいてくれる?」  相良さん。なんか、恥ずかしがってる? 僕は「もちろん」と頷いて相良さんの隣に寝転ぶ。ベッドのスプリングがぎしりと音を立てた。  すると、相良さんが心からうれしそうな顔をするから。僕は見入ってしまった。 「あたま、なでて」  相良さん。なんか今日、幼い日? 風邪をひいて心細くて、甘えたいのかな。いつもは僕が相良さんに頭を撫でられている。でも今日は逆なんだ。  ずい、とつむじを僕の方に向けてくる相良さんの頭をさわさわと撫でる。そうしたら、目元が穏やかになって、口が横に引き伸ばされた。何も言わず、僕のあいている方の手をとる。そして恋人繋ぎにした。きゅ、と指先に力め込めて握られる。  結局、相良さんはそのまま眠ってしまった。僕は頭を撫でるのをやめる。けれど、手は固く握られていて離してもらえそうにない。  まあ、いっか。このまま僕もここで寝ちゃえば。明日は仕事、夕方からだし。シャワーも朝借りればいっか。  すうすうと吐息を立てて眠る相良さんの隣で僕も背中を丸めた。  1週間前のことなど、わすれてしまえばいいと思った。

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