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第196話
翌朝、僕の方が早起きしたみたい。カーテンの隙間から朝日が差し込む。時刻は……9時か。相良さんは隣で寝息を立てて眠ったままだ。手は、しっかりと握ったまま。離してくれそうにない。
僕はそのままスマホをいじって時間をつぶす。でも、どうしても気になってしまって、ゲームに集中できない。相良さんが実は起きていて、僕の様子を観察してるんじゃないか。そう思うと、いてもたってもいられない。だから僕は思わず、声をかけていた。
「相良さん、起きてますか?」
沈黙。あ、れ。寝てる? 僕の勘違いか。
ほうっとして安堵すると、相良さんの手がぴくりと動いた。
「……ん」
そう声を洩らして僕を見る。目がしょぼしょぼとしていて眠そうだ。相良さんは寝起きで頭が働いていないのか、僕の手を自分の唇に引き寄せると、きすをした。僕の手の甲に恭しく、丁寧に。
「っ」
僕は息を押し殺してそれを見つめていた。なんで、こんなことしてくれるんだろう。身体全部で大切だよ、と言われてるみたいだ。1週間前のことが頭の隅をチラつくけど。あれは、僕の幻覚だったのではないか。そう思えるほどに、今の相良さんの様子は穏やかだ。僕のことを蹴飛ばすような人には、見えない。頬を叩くような人には見えなくて。
「おはよ」
「おはよ、ございます」
朝の挨拶。相良さんが、僕の肩に腕を回してくる。きゅう、と抱きしめられた。僕の心もきゅうとしまる。
あ、相良さんの身体の熱、引いてる……。
僕は相良さんのおでこに手をかぶせた。相良さん、ぱちっと目を丸くしてる。僕は相良さんのおでこの熱が普段とそう変わらないだろうことに気づいて肩の力を抜く。よかった。もう、大丈夫。
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