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第198話
「いってきます」
「いってらっしゃい」
玄関先まで送ってくれた相良さん。扉が閉まるまで目が合う。ぱたん、と閉じられたドア。ふっと、張り詰めていた全身の緊張が緩んだ気がした。
ああ、僕、緊張していたんだ。
また、あんなことをされるんじゃないかと怯えて、相良さんと接してたんだ。
不誠実、恋人失格ーーmate失格という烙印を自分に押した。
仕事には支障は出なかった。金森さんと、休み時間にお喋りして。メモちゃんの写真を見た。メモちゃんは、マンチカンという猫種らしい。短めの足と、ぽわんとしたお腹が見ていて愛らしい。メモちゃんは、かなりの甘えんぼうさんらしく家にいると常に金森さんのそばに居るという。寝るときも、ソファでテレビを見てるときも、お風呂に入っているときも、脱衣所の外で出てくるのを待っているんだとか。
僕はそんなメモちゃんの写真を見て心が落ち着いていく。金森さんのこと、あの日からもっとたくさん知れて嬉しいな。また今度、一緒にご飯食べたい。
家に帰って僕はそのままベッドにダイブした。昨日から密度の濃い時間を過ごしている気がする。身体が重だるい。夜ご飯、食べなくてもいっか。きっと、相良さんが見てたら叱られちゃう。でも、いいや。今はすごく疲れてるから。早く眠ってしまいたい。
夢の中なら、現実を忘れられる。目の前にあることなんてわすれて、なかったことのように振舞おう。それが、僕と相良さんの幸せのカタチならそれでいい。それがいい。
見たくないものには蓋をかぶせればいい。きつく閉じて。二度と、開かないように。傷つかないように。緩むたびに、何度でも。記憶から無くしてしまえばいい。
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