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第201話

「アンタは?」 「あ、……僕は雛瀬です」  下の名前はからかわれたくないから、言わなかった。そうしたら、相良さんが。 「俺の子の名前すっごくかわいいんだよ。知りたい?」  揶揄うような視線を仁さんに投げかける。 「知りたいに決まっとるわ。こんないい子」  仁さんも歯を見せて相良さんの言葉に応える。 「李子っていうんだ」  そのときの笑顔。きらきらしてた。自分の名前を褒めてくれる人がいる。こんなにも笑顔で話してくれる人がいる。そのことが胸に深く響いた。 「李子かあ。めんこいけど、うちのには勝てんなあ」  そう言うと、仁さんは「おーい、とうかぁ」と広間の奥の方に声をかけた。  人の間から現れてきた人に、目が奪われる。 「仁さん、人の名前そんなに大きな声で呼ばないでよ。恥ずかしいから」 「めんこい名前のおまえが悪いわ」  仁さんが笑うと、男の子は僕に向き直った。 「俺、唯川(ゆいかわ) 透夏(とうか)」  僕は彼の一点に目がいってしまって、言葉が出てこない。 「ねえ、俺が自己紹介したんだからそっちも名乗りなよ」  面倒くさそうに僕を見る目は、薄いグレー。カラーコンタクトを付けてるんだろうか。赤と、黒と、オレンジのペンキを不規則に塗りたくったような統一性のないデザインの半袖のシャツ。それを際立たせる黒のハイウエストの、裾が少し広がっているパンツ。ベルトは有名な海外ブランドの。  それと、襟足の伸びた後ろ髪。髪色は、暗い青色で。女の子の姫カットの少し毛量が少ない触覚は、グラデーションで白に染まっている。海の王子様がいるんだとしたら、きっとこの人みたいな人のことを言うんだろうなと、僕はなんとはなしに思った。

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