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第207話

「ねえ、おにィさん、ぼっち?」 「え」  ぬわ、と右側から声が。黒髪をきのこみたいな形にしている男の人が立っていた。前髪をセンター分けしている。ちらりと覗く耳には、何個もピアスがついていた。ガタイがいいわけではない。むしろ、僕と同じような細身。なのに、この威圧感はなんだろう。僕の身長に合わせて、軽く背中を曲げて覗き込んでくる。  蛇のように細い瞳がさらに細くなって、真線になった。 「そんなにビクビクしないでよ。暇だからお喋りしたかったんだ」  そのとき、口の隙間。舌にもピアスがついているのを見て、僕はかなり動揺した。今までの人生の中でまだ関わったことの無い種類の人間だ。僕は警戒するように、左側に3歩ずれた。 「えー。逃げちゃうんだ」  そうわらいかけると、僕の方に4歩詰めてくる。なに、この人。煙みたいに言動が掴めない。ゆらゆらしてる。 「パートナーとは順調?」  不意に、男の人が僕を見た。僕の首を覗いてくる。 「まだCollarなしちゃんなんだね」 「……だめですか」 「ううん。全然。じゃあ、そんなかわいいSub様にご助言を」  男の人が、首元を覆っていた黒いハイネックの隙間から、何かを見せてくる。あ、それーー。 「これが俺の、従属の印」  そこに見えたのは、仄暗い紅い色をした丸いリング。太くて、透きとおる。人差し指くらいの太さがある。それが、首元を覆っていた。

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