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第212話

 凍りついた表情を張り付けて相良さんは一言呟く。 「李子」  たしなめるように、僕の名前を零した。 「DomとかSubだとか関係ないんだよ。李子が俺以外の誰かに懐いてるのを見るのが辛いんだよ」  「ねえ、わかる?」と、ほんとうに辛そうに訊いてくるから。僕は言葉が出せなくなる。 「李子のことが心配でしょうがないんだ。前に、あっただろう? 町の丘のバーで、頭の悪いDom2人に怪我させられたよね。俺は、あんなこと二度と起こさせない。だから、李子のことを傍で守りたいんだ」  つい数分まで蹴られていたのに、僕のことを蹴っていたのにこの人は。容赦なく抱きしめてくれるんだ。花束を包むように僕を、そっと、その逞しい腕の中で。  あなたの優しさは気まぐれな猫のようだ。  甘やかすだけ甘やかして、機嫌が悪くなると拗ねてしまう。そうして、それを僕に浴びせる。  相良さんのことは大好き。だけど、こんな一面があるなんて知りたくなかった。知ってたら、mateになんてなってなかったかもしれない。  たらればを言ってしまうのが僕の悪い癖。直さないと自分が辛くなるのに、逃げ道がないから自分で作ってしまう。ほんとうは、逃げられないとわかっているのに。  心の底ではこの人から逃げたくないとも、思っているくせに。

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