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第214話

「Dear boy《俺の李子》」  ぽとり、と言葉の雨を降らせて。相良さんは僕の背中を抱きしめてくれる。背中を屈めて、いつもみたいに。僕の身長に合わせてくれる。  とんとん、と背中をさすられる。 「もう泣かないで。反省してるのは伝わってるから」  背中に回された手に力が入るのを感じた。  ああ、僕は泣いていたんだな。もう、わからない。なんにも、わからなくなってしまった。  記憶が曖昧で。その日の夜は、そのホテルの部屋に泊まった。  相良さんと何回かシたけど、記憶にもやがかかってよく思い出せない。いっぱい、褒めてくれた気がする。ちゃんと自分から謝れてえらいねとか。たぶん、そんな言葉をかけられた気がする。    行為のあと、相良さんが今日ここに連れてきた理由を教えてくれた。 「今日のあれはね、Dear gardenというmare同士の交流会だったんだ」 「ディア、ガーデン?」 「そう。パートナーのいないSubとDom、もしくは既に結ばれたmate達がお話したり、ご飯を食べたりするイベントなんだ」 「そう、だったんですね」 「俺、ここの幹部会員やらせてもらってるから行かなくちゃいけなくてね。挨拶回りも仕事のうちでさ。李子くんは付き添いで連れてきたんだけど、思ったよりはしゃいでて驚いた」 「……ごめん、なさい」  僕は声のトーンが落ちてしまう。 「いいよ。俺もあんなに初対面の人に懐いてる李子くん見れて、なんか寂しくなってさ。俺、李子くんのことが大好きなんだなーって再認識するいい機会になったから」  にかって笑う相良さんが、正直いうと怖い。あんなに僕のことを蹴って、踏んで。それを忘れてしまったの? と思うほど優しくされるから。 「でさ、俺考えたんだ。今日みたいなことにならないようにルールを決めようって」 「ルール?」 「そう。李子くんは今後Subの子とは仲良くしていいけど、俺以外のDomとは仲良くしないで。できる?」  僕が問われている方だというのに、相良さんは僕に命令をしているんだ。 「……わかりました」 「うん。いい子」  相良さんの指が僕の頬を撫でる。その手が今は、気持ち悪いと思った。

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