214 / 276
第217話
「よーし。会計するぞー」
え、待って。まだドリンクバーしか頼んでないんだけど。脱いでいた白いコートを羽織り出す透夏くんを呆然として見つめる。せつくんは? 振り返ると、彼も茶色くてボア素材のパーカーに腕を通しているところだった。
「え、無視……?」
僕は思わず心の声がもれる。それをきっ、と1睨みしてから透夏くんが言う。
「TPOわきまえろ、この無自覚DK」
いや、だから僕DKじゃないんだけど。
「りこち」
その呼び方をするのは、せつくんだ。ひそひそと僕の耳元で囁いてくれる。息があたって少しくすぐったい。
「りこちは初知りかもしれないけど、playの話は公共の場ではマナー違反になるのだよ。よく覚えておきなさい」
「ここテストに出まーす」と、大学っぽい教授のモノマネをするせつくん。
せつくんは自由自在な感じがする。好きなリズムで、好きなように振る舞う。そしてそれを許してくれる人が周りにいる。いいな、と純粋に思う。僕は人の顔色を気にしてばかりいたから。すいすいと泳ぐせつくんが眩しいんだ。手を伸ばしても届かないくらい、遠いんだ。
ともだちにシェアしよう!