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第223話
千隼という人のこと。
相良さんが振るう暴力。
それをわすれさせるくらい、優しい言動。
おやすみのキス。安心する腕の中。ぜんぶ。
信じたくて、信じられずにいたものぜんぶが胸の中に詰まっていた。その栓を開けてくれたのは、透夏くんとせつくんだった。
僕は2人より年上のくせに、その場で嗚咽を上げてしまった。僕の背中を透夏くんがぱしぱしと叩いてくれる。せつくんは、僕の鼻からたらたら流れる鼻水をちーんと拭き取ってくれた。
泣きおさまった頃。せつくんが語りかける。
「りこちのDom様には、そういうお仕置をするなにかしらの理由があるのかもね」
やさしく微笑みながら、僕を見つめる。
「なにか、その理由を詳しく知っていそうな人とかいない?」
「あ……」
頭の中に浮かんだ。ピンクシャンプー。志麻さん。
志麻さんなら、何か知ってるはずだ。
『こんなに甘やかされてたら、いつか自分で立てなくなるよ』
初めて髪を染めたときに言った彼の言葉が。頭の奥にこびりついて消えてくれなかった。
「じゃあ、そいつに聞いちまえ」
透夏くんが身を乗り出して言う。
「相良がそんなことする理由がわかったらさ、mateとしてさらにいい関係築けるんじゃねえ?」
もっともな意見だ。僕は何度か頷いた。
「解決策は出たみたいだね。りこち。少しは楽になった?」
「うん。すごく、……楽になった。透夏くんとせつくんのおかげ。ありがとう」
僕は深々とお辞儀をする。
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