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第232話

「どうして千隼だって気づいたの」 「……見てしまったんです。お菓子の袋の中に、手紙が入ってました。千隼へって、書いてありました。相良さんの、字でした」 「……そう」  それきり、志麻さんは黙ってしまった。窓の外を見つめながら街ゆく人を眺めているようだった。ここは、大きな交差点が目の前にあるから人通りが激しい。  カフェの窓辺に、ぽつ。水滴が飛び乗った。  ぽつ、ぽつ、ぽつ。  それは、何個も何個も弾かれて窓に張り付く。  ああ、今日の天気予報、雨だったっけ。  僕は、志麻さんの視線を真似して外を見た。眼下の人達は急いで傘を開いたり、店先で雨宿りをしている。 「いこうか」  志麻さんが、ふとそんな言葉を洩らす。「どこにですか」とは、聞けなかった。そんな雰囲気じゃなかった。志麻さんが支払いを済ませて、美容院の駐車場に行く。僕はそれを早足で追いかけていった。  車に乗り込んでもう1時間は経ってる。どこに向かっているのか、何の目的があるのかもわからない。それでも、僕は何も言わなかった。志麻さんの目指す場所には、きっと僕の知らないなにかがあると確信していたから。  深い緑に覆われた風景の中に来た。雨は強くなり、ざあざあと地面を濡らしている。  白い建物が見えた。西洋風の2階建ての。庭も見えた。広い。パンジーが咲いている。紫。黄色。どれも皆、雨に打たれている。

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