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第234話

「体調はどう?」  志麻さんの言葉が聞こえているのかいないのか。千隼は睫毛を落とした。 「そっか」  今の行動だけで、志麻さんは千隼の気持ちを読み取ったらしい。志麻さんが僕を見た。 「この子、雛瀬くん。俺の太客様」 「……は、はじめまして」  じっと、見られていた。つま先からつむじまで全部。でもその視線には力がない。 「かわいい子」  千隼が声を出した。想像していたより低い声。ふ、と。この部屋に来てはじめて千隼が表情を見せた。唇を横に引き上げている。あ、なんかーー。  相良さんと、笑い方が似てる。 「だろ? めちゃくちゃかわいいよなあ。俺のスタイリングのおかげだよな!?」 「ううん。雛瀬くんがかわいいから、誰が何やってもかわいくなるんだよ」 「ありがとうございます……」  こうも急に褒められると、なんだか心がそわそわしてしまう。 「俺の言葉は無視かよ……」  千隼は、再び表情を消してしまった。さっきまで微笑んでいてくれたのに、もう人形みたいに動かない。手の甲に浮いた骨の線が、さらに千隼を病弱に見せる。 「志麻」  沈黙していた千隼が、視線を自分の手に落として言葉を吐く。 「抱きしめてくれないか」  儚く、きみが笑うから。僕は身体中に鈍い痺れが走った。 「いいよ」  照れることもなく志麻さんが千隼を抱きしめてあげる。これは、2人にとっては慣れた行為なのだろうか。

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