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第236話
僕は目を見開いた。あの、千隼の病的な姿はサブドロップなんだ。そうして、千隼がああなったのは。
僕の頭の中の言葉が見透かされたみたいに、志麻さんが唇を動かす。
「そう。優希のせいだ。あいつが、千隼とmateだったときに過激なplayとお仕置をしたせいで、千隼は他人と触れると発作を起こしてしまうようになった」
心臓が紐で縛り付けられるようだった。そんな、相良さんが千隼にそんなひどいことをするはずがない。だって写真の中の2人はとっても笑顔で、仲良しに見えて。
「俺は毎月、見舞いにきてる。今日みたいに俺が千隼に触れて、リハビリをしてるんだ」
苦笑しながら「まだ1度も成功したことないんだけどね」と言う。そのあとで、声を沈めて。
「雛瀬くんにも、心当たりはあるはずだ」
そう、問われてから気づく。
あ。
僕は今日志麻さんに会いに来た理由を思い出していた。
「優希の毒に犯されてしまったら、君もあんなふうになるかもしれない」
言われてみて、ぞっとした。あんなに、痩せこけて。ベッドの上に座って。ただ、外を眺めている。1人では、生きていけないみたいに。
「嫌なんだ。友達を2回も失うのは」
志麻さんが微笑しながら僕を見る。
「雛瀬くんには、幸せになってほしいから」
息が、できなかった。
しばらく、息を吸うのを忘れていると窓の外に見慣れたものがよぎった。僕は目を瞬かせて外を見る。車から出てきた背中。まっすぐで、バランスがよくて。片手に紙袋を下げて、入口に向かって歩いていく。
その人物は受付で何かを話していたけど、すぐに外に出てきてしまった。俯いて、顔を歪めて、紙袋の紐をぐしゃぐしゃになるまで握りしめて。
「あれが、優希だ。千隼から面会謝絶を受けてるし、贈り物も拒絶されてるから、千隼がサブドロップになってからはもう8年も会ってない。それでも、毎月ここに顔を出してる」
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