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第239話 冬に咲く朝顔

「こんばんは」 「こ、こんばんは」  相良さんを自宅に上げるのは2回目だ。今日は自分なりに部屋の掃除もしたし、前回はなかったスリッパも用意した。相良さん、スーツ姿だ。仕事終わりに来てくれたのかな。 「ああ、ありがとう」  スリッパを履いて部屋に足を踏み入れる相良さんの後ろ姿を追う。平机の上に、ホットコーヒーを入れて置く。 「そんなにかしこまっちゃって、どうしたの?」  僕は息を吸うにも緊張してしまって、挙動不審になってしまった。だって、だって。こんなに近くに、僕の部屋に大好きな人がいるんだから。緊張しないわけがない。 「あ、そ、の……えと、あ……」 「うん」  僕の不明瞭な言葉を聞いても急かすことなく頷きながら待ってくれる。ああ、こういう所が大好きなんだ。  大好きな人だから、受け止めてあげたい。mateとして、恋人として。  だから僕は思い切って言葉を放つ。聞かないままなあなあにするのは、後悔するだろうから。 「相良さんが、僕を蹴ったり頬を叩くのはなんでですか」  言った。言っちゃった。僕は相良さんの反応を見るのが怖くて、目をぎゅっとつむる。目を閉じてもわかる。目の前に、相良さんの熱があること。  沈黙が重たい。目を開けて様子を確認しようとしたときだった。ふわ、と背中にまわる熱。驚いて目を開けた。 「……」  抱きしめられていた。柔く、熱が重なり合う程度の抱擁。相良さんの顔はここからでは見えない。僕の肩に顎を乗せながら僕の背中に手を回している。

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