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第243話

「どうして……」  額にしわを寄せる彼の言葉に答える。 「相良さんが、寝言で名前を呼んでいました。それと、毎月くれるお菓子の袋の中に手紙が入ってて……千隼って書かれてました」  彼は、はっとしたように僕の顔を見た。 「それと、志麻さんにお話を聞きました。相良さんと千隼という人のこと。今、サブドロップ患者をみてくれる有料介護ホームにいることも。僕、千隼さんと会ったんです」  さすがに、相良さんは言葉を失ったらしい。血の気が引いているようにも見える。 「千隼さんと、僕は違います」  雛瀬李子。相良さんの目を見て話すんだ。今、とても大切なことを話しているのだから。 「僕はサブドロップにはなりません」 「……どうしてそう言いきれるの」  相良さんが疑うような視線を僕に投げかける。 「もし、そうなってもあなたが助けてくれるでしょう?」  相良さんの唇が歪む。薄暗い黒が瞳の奥で揺れている。それは何度か僕と平机の上のコーヒーカップを行き来する。最後に、僕の足元を見た。 「どうしてそんなに俺のことを信じてくれるの」  唇を湿らす。言い間違いがないように、喉の奥から声を出した。 「僕は相良優希さんのことが大好きだから」 「……」  相良さんの放り投げられた手をとる。包み込むように、寒さに凍えないように。

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