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第266話 印
「李子」
今日は仕事が終わってからすぐ相良さんの家に来た。話があると言っていたから。彼は優雅に足を組んでリビングのソファに腰掛けていた。おいでおいでと手招くので、隣に腰掛ける。
「今日は、仕事どうだった?」
「んと……いつもより忙しかったです」
「そう」
僕のパーカーの紐を引っ張って遊んでいる。話ってなんだろう。相良さんが特段何も言わないのでこちらから聞いてみることにした。
「あの、お話って……?」
「あー。そうそう、なんか、こういうのはガラじゃないんだけど」
頬をぽりぽりとかきながら、ズボンのポケットから何かを取り出した。
四角い紙。何かのチケットみたい。
「これ、李子くんの分」
「?」
「急な話で申し訳ないんだけど、俺来月からシアトルの本社に転属になったんだ……一緒に来てくれるかな?」
「っしあとる?」
アメリカの都市の名前だってことはなんとなく想像がついたけど、どこにあるのかはわからなくて。僕はたちまちパニックになってしまう。相良さん、転勤するの? それで、僕もそこについて行くの? 仕事は……どうすればいいんだろう。
「李子くんの会社の上司からも許可は取ってるから安心して」
いつのまに……っていうか、相良さんの力すごい……。
「その上司との話し合いによれば、李子くんはシアトルでテレワークをするような形になるんだよ。日本との時差があって、逆に仕事はしやすいんじゃないかな。夜番の仕事を昼間にできたりするし」
「あ、え、……なるほど」
話に頭が追いついていかない。
とりあえず、僕の仕事については問題ないらしい。そこは、大丈夫。
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