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第277話 ③
うとうとと。君の頭が船をこぐ。こっくり、こっくり、こっくり。
君は今日、朝早く仕事をしてきたから、疲れ切ってしまっている。切り干し大根みたいに、しなしなだ。
俺は白いソファに横たわる君を持ち上げる。李子くんは、軽い。ひょいと持ち上げて寝室に連れていく。あ、変な意味じゃないけど。疲れてる李子くんに無理させるようなことはしたくない。それは、俺の中でのちいさな誓い。
ふにゃ、と気ままな李子くんの寝ぼけ顔を見てるのも一興で。俺は無音カメラでぱしゃぱしゃとその表情を写真におさめる。……よく撮れた。スマホのホーム画面にしよう。待受画面だと、すぐにばれて怒られそうだから。
李子くんの前髪を何度か指で梳く。李子くんの髪の毛、サラサラだ。でも、あんまり撫で回して起こしてしまうのは良くないだろうから、俺はなんとか耐えて頭を撫でるのをやめる。
その直後に聞こえてきた君の寝言が、俺を途方もなく嬉しくさせる。
「……さがらさ……も、たべられないよ……」
ちょっと嫌そうに顰められた眉。夢の中でなにを食べてるんだろう。俺はくす、と微笑んでしまう。
だって彼はこんなにかわいいのだから。
口を半分開けている李子くん。その唇に、そっと蓋をする。窒息したらいけないから、一瞬だけ。
「Good dream《ねんね》」
幼い子どもに言い聞かせるように呟く。李子くんには幼いままでいて欲しい。大人のごちゃごちゃになるべく触れずに生きて欲しい。
君が困ったら、俺が全部教えてあげるから。
だから、ずっと幼いままでいてほしい。1人じゃなんにもできなくなって、俺の力がないと生きられないみたいに。
俺がいなきゃ、酸素も貪れないくらいに。俺に溺れてほしいんだ。
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