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第278話
明け方の空気にまとわりついて、目が覚めた君を抱き寄せる。髪の毛に天使の輪っかがついている。
李子くんはひとつ小さくあくびをすると、目を擦りながら俺を見つめる。まだ焦点の合っていない瞳。
「相良、さん。お仕事……頑張ってください」
「うん。行ってくるね」
君の仕事は今日は夕方からだと言っていた。だから、起こさないようにとベッドを降りたのに。俺のために起きてくれたのかな。そう思うとたまらなくなる。こんなにかわいい君を置いて仕事なんて行けない。
休んでしまおうか。仮病でもなんでも使って。
本気で考え出してから、いやいやと踏みとどまる。仕事を休んだら李子くんの頭に角が生える気がする。それと、ぽかぽかと俺の胸を叩いてくるはずだ。「仕事は休んじゃダメです!」そんな光景が目に浮かび満足したところで俺は玄関を出た。
ベッドの上で微睡む君を想像しながら車に乗り込む。
職場では最近機嫌がいいなと同僚に言われる。
李子くんのおかげだ。
でも、教えない。
そうかな、とぼやき仕事に向き合う。
今はまだ、李子くんのことは俺だけが知っていればいい。
たったひとり、俺だけが李子くんの世界でいたい。
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