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第13話

※R-18 「君は……彼のことが好きだった?」 と聞くと、マキは驚いたかのように口を開け、やがて首を振った。 「わからない。宍戸さんといたのはほんの数ヶ月だったけど、俺にとっては初めての親みたいと思える存在で……だから、彼が最期の最期に自分のサブの名前を呼んだ時……俺は裏切られた気分になった。結局、俺は誰かの身代わりで、全然相手にされていなかったんだと……」 「そんなことない!」 と言ったあと、続く言葉が見つからないことに良明は気がついた。 その場にいなかった良明が、宍戸とマキとの主従関係を判断することはできない。主従関係とは堂島たちが言っていたように結局、その当人自身たちにしかわからないものなのだから。いや、もしかしたら、当人たちすらもわかっていないのかもしれない。 「君はそのあとどうしたの……? 宍戸さんが亡くなったあと?」 「今と変わらない。色んなマスターのところを転々として、そうしていくうちにサブとしての基本を身につけて、サブというものの不毛さに気がついた。現実のサブは——そして、マスターは宍戸さんが語っていたものとは大違いだった。でもそれに気づいた時、俺はマスターなしでは生きられないようになっていた。俺が得意なのは結局、昔から人に従うことだけだったから」 冷たい自嘲の響きに、良明の中で忘れかけていた怒りの熱がぶり返した。自然と声も重たく、低くなる。 「じゃぁ、君は宍戸さんから何も学ばなかったの? サブがいかにマスターに敬意と愛情をもって仕えるか教えてくれた彼のことを?」 「それはお互い様だ。彼だって俺のことを自分のサブを思い出すために道具として利用していたものだし。愛情とは言っていても結局、サブとマスターは互いの存在と身体(からだ)を利用しているに過ぎない。俺はそれを嫌というほど見てきた」 嫌悪感を露わにしたマキを、良明はじっと見据える。 「本当に? 君が気がつかなかっただけなんじゃないの。いや、気づこうとしなかっただけじゃないのか。自分をそうと思い込ませようとするために」 「どうゆう……」 外国語を言われているかのようなにマキの眉が寄る。もどかしさと憐憫を飲み込んで、良明は相手の入り口にわずかに触れていた屹立をじりじりと中に沈めていった。その大きさをいやでも思い出し、マキが鋭い痛みと甘い疼きに声を上げる。 「とはいえ、話してくれたことには変わりはないから、ご褒美を上げる。これを外してあげるよ」 マキの手首と足首を拘束していた手錠を外すと、マキは支えを求めるようにふらりと良明の方に手をさまよわせた。 だが寸前のところでギュッと拳を握り締めると、いつものように背中の後ろで手を組んだ。完璧すぎるほどのサブの基本姿勢に良明は棘のような苛立ちを覚え、相手の手をがしりと掴むと、自分の肩に回した。 「しっかり掴んで。こうすれば自分で動けるだろう」 「? マスター……?」 良明はマキの手を離すと、再び相手の腰に手を這わせた。ついで誘うように一度、大きく怒張を相手の中に突き立てる。 「あっ……! マスターっ……!」 「許可する。自分で動きなさい」 ぎゅっと自分の肩を掴み、快楽の波をやり過ごそうとしているマキの耳元に、唇を近づける。 「マキ。堂島さんが言うように、君は我が儘な子どもだ。まず君は、自分のことよりも相手に尽くすことを覚えなさい。サブとして、主人──僕を喜ばせて」 「……っ、は、い……マスター」 逃げ道などもうないと、とうにわかっているのか、マキは切なげな息をもらすと従順に腰を動かし始めた。ローションでよく慣らされたマキの内壁と、良明のものがこすれ合い、湿った卑猥な音が部屋にこもる。 「あとわかっていると思うけど、僕よりも先にイッちゃダメだからね」 良明が気まぐれに触れると、話している時に萎えていたマキの前のものが再び頭をもたげてきた。 「マキ、返事は?」 と聞くと、マキは夢から醒めたように大きく身体を震わせた。 「……っ、はい、マスター。俺はマスターの許可があるまで、イきません……」 「いい子だ。じゃぁ、集中して」 マキはさらに良明の肩を強く掴むと、初めは緩やかに、そのうち激しく腰を上下させ始める。ズッズッとマキの中でお互いの皮膚が擦れ合い、まるで火花が散るような刺激が生まれる。 「んんっ、あっ……! マスターぁ、き、気持ちいい……?」 「っん……気持ちいいよ。君の中は、すごく熱くて……っ、きつい……」 誘惑に負けて良明も自ら突き上げると、マキは背中をのけぞらせて喘いだ。だが突然、気を失ったかのようにがくんと良明の身体に倒れ込む。 一瞬、イってしまったかと思った良明だったが、マキの腹は綺麗で、ペニスも変わらず勃ち上がりとろとろと先走りをもらしていた。 「マキ? どうしたの? 僕を喜ばせてくれるんでしょう?」 肩を掴んで起こそうとすると、マキは弱々しげに首を振った。涙さえ滲ませた声で言う。 「無理っ……もう出来ないっ……」 「なんで? ほら、動いて」 良明がわずかに腰を動かすと、マキは逃げるように腰を浮かせ、ぶんぶんと大きく首を横に振る。 「うっ……ごめんなさいっ……できない……こ、これ以上動いたらイっちゃう……!」 マキはぎゅっと良明の首に腕を回し、首筋に顔を埋めた。 「マスター、お願いしますっ……一回イかせて……そしたら、ちゃんとするからっ……」 「ダメだ。もし君がイったら、また最初からやり直しだ。何度だって君の秘密を喋ってもらうよ。それでもいいの?」 無慈悲な声にマキは唇を結ぶと、諦めたかのように再び、腰を動かし始めた。だがその動きは弱々しく、入り口の浅いところでわずかに揺するくらいだった。 「ねぇ、マキ。これで僕を喜ばせられると本当に思っているの? 君はそこまで自分勝手で我が儘なの?」 グイッと乱暴に根本まで埋めると、マキは高い、熱に浮かされた声で哀願した。 「ゆ、許して下さい、マスター。もう、無理っ……俺にはできないっ……!」 「さっきはあんなにシたがっていたのに? 何でもするって言っていたでしょ?」 失望したよ、と言うと、マキは泣き出す寸前のように顔を歪めた。 「違う……マスター、お願いだから。俺を──」 マキははっと言葉を飲み込むと、喉からか細い嗚咽をもらし始めた。「マスター、お願い」とすすり泣きのように繰り返す。 良明は大きなため息をつくと、ぎりぎりのところで耐えているマキの前のものをきつく握った。 「ほら、これでイことはできない。さぁ、腰を動かして」 パシンと尻を叩くと、マキはびくりとして、腰を動かし始めた。良明の叱責を畏れているように、今度は内壁の奥に良明のものを激しく打ち付ける。その刺激でマキのペニスの鼓動が増したのを感じ、良明は拳にかける力をさらに強くした。 「ああ……っ! マスター、ヤダ、それっ……、痛いっ……!」 「痛いの好きでしょう? 気持ちいいんじゃない? もっと痛くしてあげようか?」 ぐぐっとさらに力を込めると、マキは苦痛の滲んだ泣き声を上げた。布に涙のしみが滲んでいる。 「ご、ごめんなさいっ……好きじゃないっ……俺、本当は痛いの、好きじゃないっ……!」 耐えきれなくなったマキは、良明の肩をぐっと掴むと、顔を伏せたまま叫んだ。 「お、オレンジっ……! オレンジっ……!」 自分でも何を叫んだのかわからなかったのか、マキはパッと顔を上げると、恐怖に顔を引き攣らせた。力をこめすぎた拳が真っ白く染まっている。 「あ……ごめんなさいっ、俺、言うつもりじゃっ……」 ぶるりとマキは身体を震わせ、縋るように良明の肩のシャツを握る。 「お願いっ……見捨てないでっ……! 俺、何でもするからっ……!」 「いいんだよ」 良明はすぐさま相手の目隠しを取ってやると、小刻みに震える身体を両腕でぎゅっと抱きしめた。相手の裸の肩越しにくぐもった声で言う。 「ありがとう……セーフワードを言ってくれて……いつ言ってくれるか、ひやひやしていたんだ」 「え?」 マキはきょとんと顔を上げ、戸惑いの目を良明に向ける。その睫は重たく涙に濡れ、目尻にも透明な滴が滲んでいた。 「マスターは、俺を嫌わないの……?」 「セーフワードを言ったから? まさか。そんなことで君を嫌ったり、見捨てたりはしないよ。君はそれが不安だったの?」 良明は身体を離し、相手の顔を覗き込んだ。マキは戸惑った様子で、左右に視線を彷徨わせる。 「だって、何人かのマスターとは俺がセーフワード言った途端、契約終了になったから……」 「だから、セーフワードを最初から言わないようにしていたの? 見捨てられるのが怖くて?」 突然、マキの両の目から滂沱として涙がこぼれ落ちる。それは痛みからでるものとはまったく違っていた気がした。彼はほとんど倒れ込むように、良明の肩口に額をつける。 「俺、ずっと怖かったんだっ……! また見捨てられるんじゃないかってっ……! 死んだ親とか、里親とか、宍戸さんの時みたいにっ……! だから──」 ひゅっと息を吸い込むと、マキは拳をきつく額にあてた。 「だから、その前に逃げたっ! 誰かに気持ちを抱かないように、わざとひどく扱ってもらって……ほ、本当はいいマスターもたくさんいた……でも俺は居心地よくなる前に逃げたんだっ…… もう耐えられなかったからっ! 好きな人たちに置いていかれるのはっ……!」 ううっとマキは背中を硬くしなり、嗚咽を押し殺していた。 「でも本当は欲しかった。『お父さん』とか『お母さん』とか、名前は何でもいい。とにかく誰かの何かになりたかった。誰かの何かになって安心したかった。安心できる場所に迎え入れられたかった。だから『サブ』になった。たとえ、それが痛みと引き替えだったとしても、何もないよりましだったからっ……!」 マキの泣き声がさらに増し、ほとんど嗚咽で言葉がわからないくらいだった。良明は荒い呼吸で上下する相手の肩に片手を置くと、ひゃっくりを上げるマキの顔を覗き込んだ。 「それが君の欲しいもの? 誰かの何かになることと、安心できる場所が?」 永遠とも思える沈黙のあと、マキが小さく頷く。ほろりと涙の雫が一滴、裸の胸の上に零れ落ちた。 「──わかった」 良明は厳粛に頷くと、再びマキの身体をきつく抱きしめた。これ以上、自分たちの間には空気ひとつだってないというようにきつく。 「ここにある。君の望むものは全部。もし君が僕にその心と身体を開け広げてくれるなら、全部僕が与える。君のマスターとして、君を全力で守り、一生、君を離したりはしない」 マキは驚きに顔を上げた。 「な、何でそこまで……」 「ここまで言って、何で気づかないの。僕は君のことが好きなんだ。いや、それだけじゃ足りない。君は僕がずっと憧れ続けてきた運命の人なんだ。君は特別だ。君といる限り僕も特別になれる」 良明は手を握ると、相手の手のひらの傷口に唇を這わせた。 「僕には君が必要だ。君が欲しい。何もかも、全部」 キスの雨を降らしながら、上目遣いでマキを真っ直ぐに見る。 「だから、お願いだ……僕のものになってくれ……」 サブにこんなに必死に慈悲を乞うのは、マスター失格かもしれない。でも今の良明はもうマスターでも何でもなかった。ただ、みっともなく愛を乞う一人の男だった。 長く続く沈黙が、身を切るように痛かった。良明は相手の顔を直視することができず、ただひたすら相手の掌に顔を埋める。 すると、マキのもう片方の手が良明のシャツをぐいっと引き、顔を上げさせた。何が起こったのかわかる前に、温かいものが良明の唇に重なっていた。それがマキの唇だとわかるのに、数秒かかった。 「……っふ」 マキは、まるでキスなど初めてしたかのように唇を不器用に重ねると、吐息の間から言った。 「グリーンだ」 「へ? マキ、何て──」 「グリーンだよ」 「それってつまり──」 徐々に思考が戻ってきた良明は言葉がでる前に、荒々しくマキの唇を奪っていた。勢いよくベッドに押し倒され、一瞬、驚いたマキだったが、良明の情熱に従うように相手の首に腕を回すと、自らも荒々しく唇をぶつけてくる。 互い、優雅さも余裕のかけらもない。途中、がちりと歯がぶつかるが、そんなこともおかまいなしに、ただ互いの口内を貪り続けた。 ──これじゃ足りない。もっともっと欲しい。 相手の唇だけを支配することに物足りなくなった良明は、マキの足を大きく広げさせると、中に自分の猛ったものを一気に埋め込んだ。 「っああっ……!」 純粋な歓喜と痛みに泣いたマキは、自分の中を押し広げ、突き上げる全ての動き捕らえようと自らも腰を打ち付けてくる。その貪欲さに煽られ、良明もさらに腰の動きを速く、深くする。 「ごめんっ、マキ……僕、抑えられない……クッ……君を、傷つけたくないのに」 出来るだけ相手への負担が大きくならないよう、必死に緩急を織り交ぜながら突き上げていると、マキがぎゅうっと良明の首に回した腕に力を込めた。 「大丈夫っ、あんたは俺を傷つけたりしないっ……絶対に……俺、好きだよ。あんたがしてくれること全部……全部好き……」 耳元で甘く囁くかすれ声に、カッと良明の全身の血という血が燃え上がった。マキの太股の裏側を掴み、さらに足を上げさせると、前立腺側をくまなく刺激するように位置を変えながら突く。それがあるところにきた時、マキは声にならない声を上げた。 「あっ、そこ、ダメっ……! イクっ……! イっちゃうっ……!」 「いいよっ、何度でも好きな時にイって。僕も何回でもイけそうっ……!」 同じところを何度も──時に気遣うように優しく、時に支配するように荒々しく突き上げると、マキはこなしきれない歓喜に背中をのけぞらせた。 「マキ、気持ちいい? 今、どう感じてる? 言って」 「あっ、き、気持ちいいっ……」 「それだけ?」 顔を埋めた良明の首筋で、マキは首をふるふると振る。その両の瞳から、ぼろぼろと温かい涙を溢れ出る。 「あんたと、こうしてるとっ……んっ、すごく……安心するっ……」 甘い嗚咽をもらしながら、ふわりとマキの唇に微笑みが花開く。 その瞬間、良明にはわかった。マキは今、戦うことを止めたのだと。 ──今、この瞬間、彼は解放された。自ら築き上げた、全ての束縛から。 そして、この無防備でまっさらな身体を次に縛り上げるのは──自分だ。 「──んっ、あああっ……!」 最奥を一気に強く貫かれ、マキは達した。焦らされた分だけ大きく長くなった絶頂の波に浸りきるように、身を震わせ、涙を流す。 「……くっ、あ」 自らの純粋で暗い情熱に動かされるように、良明はマキの最奥を何度も何度も激しく貫いた。絶頂の余韻でどこもかしこも敏感になったマキはか細い声を上げ、従うよう腰を合わせてくる。 二人のリズムが完全に重なり合った時、良明の目の奥で真っ白い欲望の閃光が弾けた。 ○●----------------------------------------------------●○ 3/23(水) 本日、『マイ・フェア・マスター』のPV増加数の方が 7ビュー分多かったので、こちらを更新させていただきます。 動画を見てくださった方、ありがとうございます! 〈現在レース更新中〉 ↓↓以下の作品の動画のPV増加数に応じて、 その日更新する作品を決めさせていただいていますm ◆『マイ・フェア・マスター』(SM主従BL) https://youtu.be/L_ejA7vBPxc ◆『白い檻』(閉鎖病棟BL) https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ ○●----------------------------------------------------●○

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