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<塁の安堵>

 救急搬送されたのは、碧の主治医がいる病院だった。  塁が駆けつけた時にはすでに碧の意識はなく、ぐったりとしているような状態ではあったが、先ほどチラリと顔を出した主治医の話では命に別状はないとのことで、ようやく塁は肩の力を抜くことができた。  倒れた原因は、どうやらオメガ向けの催淫剤が使われたことによるものらしい。もっとも、狙われたのは碧――ではなく、棗の方だ。冗談交じりにアルファからのアプローチがすごいと棗は笑って話していたが、実は冗談ではなかったのかもしれない。  そんな棗も、碧と同じくこの病院に救急搬送され治療を受けている真っ最中だ。  ひとまず碧と棗を襲った馬鹿なアルファ二人組は警察に引き渡されたし、あとは二人が無事に回復してくれるのを待つばかりなのだが。  何か飲み物でも買って来るか、と広いロビーの方に向かおうとしたところで、碧の主治医が再び姿を見せた。 「君が碧くんの(パートナー)で間違いない、かな?」  そうです、と答えると、それじゃあ一緒に来て、と手招きされる。 「あ、私は碧くんの主治医で、宮鳥(みやとり)っていいます」  こちらへどうぞ、と促されて足を踏み入れたのは診察室だった。 「とりあえず、先にいくつか確認したいことがあるんだけれど」  碧くんは隣で点滴中だから、と説明され、診察用の丸イスをすすめられる。  「まずお名前を伺っても?」    そう問われ素直に名前を告げると、何やら色々と電子カルテに打ち込んでいたらしい宮鳥の手が止まった。 「クガミネって……、あの玖珂嶺?」 「……たぶん、その玖珂嶺です」  まったくの初対面の相手に自分の名前を告げると、だいたい皆一様に同じ反応を返してくる。案の定、宮鳥もそうだったが、さすがは医者と言うべきか、すぐさま自分のペースを取り戻したらしい。 「そっか、それなら納得だよ」  そう言って、宮鳥は机の上にあったチラシらしきものを一枚こちらに差し出した。 「今回使われた薬、わりと特殊なものでね」  どこかのウェブページを印刷したものなのか、そこにはこれでもかというほどの下品な言葉が並んでいる。 「即効性と持続性に優れてるってのが謳い文句で、まぁ、医者から言わせればこんなものオメガにとっては毒に等しいとしか言いようがないんだけど」  そう言って溜息をひとつ吐き出した宮鳥に、碧くんの体質は知ってるよね、と確認され、もちろん、と答える。 「正直、抑制剤とか発情コントロール系の薬に耐性のない碧くんにこんなもの使うなんて、とてつもなくマズイ状況なわけ」  だから連絡を受けた時はものすごく焦ったのだと宮鳥は言う。 「でも診察してみたら想像以上に症状は軽くて、あれ?って思って、もしかしてって思って確認したら、ね、ちゃっかり噛まれてたわけだ」  ぽんぽん、と自分のうなじの辺りを軽く叩いて笑った宮鳥は、それでも、と言葉を続ける。 「碧くんの場合、(つが)って体質改善までできるかどうかは、正直なところ相手のアルファ次第って感じだったんだよね」  さすがにその辺りは本人のプライベートな部分だから医者が立ち入っていいものでもないし、と宮鳥は苦笑する。 「だから、ほんと、玖珂嶺くんは医者から言わせてもらえば碧くんの番としてパーフェクトなわけです」  そう言い切った宮鳥がグッと親指を立てて爽やかな笑みを見せたところで、コンコンッと診察室をノックする音がタイミングよく響いた。 「先生、そろそろ点滴終わります~、あと、ご家族の方もおみえになりました~」 「はいはーい」  顔を出した看護師に明るく答えると、宮鳥はくるりとこちらに向き直る。 「ちなみに、碧くんのご家族は君のこと知ってるのかな?」 「……近々ご報告に伺う予定だったので、まだ」  そう正直に答えれば、なるほどなるほど、と宮鳥は頷いた。 「ならば悪いようにはしませんので、ご一緒にどうぞ――君は碧くんの唯一無二の番なんですから」

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