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<宮鳥は世話を焼きたい>

 本能とはすごいものだな、と宮鳥は常々感心している。  ひとくちにオメガとアルファと言っても、やはり双方には相性というものが存在する。もちろん、それはベータだって同じことだ。  ただ、発情期をもつオメガにとっては特にその相性が大事になってくる。  なかでも碧のように薬を受け付けず他人の発情期に充てられやすい体質には、番となるアルファの“強さ”が重要になってくるのだが、しかし医者としてまさか「強いアルファと番になりなさい」なんてアドバイスができるはずもない。  けれど、碧はきちんと選んだのだ。しかも、相思相愛。まさしく運命だ。  すでに番になっている以上、たとえ家族であっても周りが口を出すことではない。オメガを愛すれば愛するほど、アルファはその独占欲からすぐさま番関係を結ぶのは周知の事実だ。  とは言え、家族と顔を合わせるというのはそれなりに覚悟がいるものだろう。  碧の両親も姉も、宮鳥は何度も顔を合わせている。恐らくは、碧の番に対してきつく当たるようなことはしないはずだ。 「お待たせしました」  面談室1のプレートがかかった部屋には、慌てて駆けつけてきたのであろう碧の両親の姿があった。  「今は点滴中ですので、そちらが終われば面会していただいて大丈夫です」  不安そうな表情を隠せない両親に、状況を説明しながら碧は無事であるということを丁寧に伝えていく。 「ひとまず今日は様子見で入院となりますが、明日には退院できると思いますよ」  強張っていた表情がようやく緩み、ありがとうございます、と頭を下げる両親に、いえいえ、と首を横に振る。 「それは私に、ではなくてですね」  そうして面談室の外で待機していてもらった彼を中に招き入れた。 「碧くんの(パートナー)である、彼に」  礼儀正しく頭を下げ自己紹介をする塁の姿に、碧の両親はぽかんと口が開きっぱなしだ。 「医者として言わせてもらえれば――」  余計なお世話かもしれないが、と付け加えたうえで、彼がいかに碧にとって最高の番か、もし番になっていなければ今回の件はどうなっていたかわからない、といったことから、退院後もできれば番と一緒にいた方が体調は安定するだろう、なんてことまでご両親には伝えてみる。  もちろん、どれも嘘ではなくすべて事実だ。 「ついでに、これは医者としてではなく、僕個人の勝手な言い分ですが」  そう言いながら、ちらりと塁を見遣る。  救急車で同乗してきた彼は、ずっと碧の手を握りしめていた。何度も何度も名前を呼び、声をかけ続けていた。碧が処置室に運び込まれ、そうして命に別状はないと告げられるまで、彼は廊下に立ったまま、ずっと碧の無事を祈っていたことを宮鳥は知っている。 「彼になら、碧くんを任せても問題ないと思いますよ」  その言葉に驚いたような顔をしながらも、塁は再び丁寧に碧の両親に頭を下げた。 「では、私はそろそろ失礼しますね」  じきに碧も目を覚ますだろうし、塁を含め家族でいろいろと話さなければならないこともあるだろう。  碧の点滴が終わるまでこちらでお待ちください、と言い残して面談室を後にする。  番にまつわるあれやこれやは、決して全部が全部うまくいくわけではない。だからこそ、碧と塁のような二人を見ると、宮鳥は幸せを分け与えてもらえたような気分になる。  上機嫌で診察室へと戻る途中、バタバタと派手な音を立てながら廊下を駆け抜ける碧の双子の姉・茜の姿をみかけた。  茜は、見た目は可憐な少女のくせに、その中身は強気で喧嘩っ早いうえに大雑把。しかも、ブラコンで碧至上主義だ。  もしや塁に喧嘩をふっかけるのでは、ともう一度面談室に引き返そうかとも思ったが、のんびりと後を追いかける茜の番の姿を目にして、まぁ大丈夫か、と思い直す。  と、ちょうど呼び出しを知らせるメッセージが宮鳥のスマホに届いた。 「問題は――、もう一人の方だなぁ……」  内容を確認し、ふぅ、と小さく息を吐き出すと、宮鳥はやや足早に診察室へと向かった。

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