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<塁の僥倖>

 発情期のオメガとのセックスは最高に気持ちがいい――  と、周りのアルファは口をそろえて言うが、正直なところ、塁にとっては相手が発情期であろうとなかろうと、そんなに期待するほどの差はないと思っていた。  オメガに限らずベータも含め、それなりの数を相手にしてきた塁ではあるが、忘れることができない特別な相手は残念ながらいない。  当然、発情期のオメガとセックスしたこともあるが、確かに興奮はする反面、避妊やら何やら色々と理性を保たなければならないことも多く、塁は逆に面倒くささを感じるほどだった。  特にここ最近は、そこそこ名の知れた家柄であるがゆえの利害関係が微妙に絡んできたりして、積極的に誰かと関係を持とうという気すら薄れていたのだが。  やばいオメガを掴まえたかもしれない、というのが碧を組み敷いた塁の正直な感想だった。  オメガの本能を抑え込むのに長けているらしくなかなか理性を失わない碧だったが、それでも時折溢れ出てくる発情期特有のオメガの匂いはあまりにも甘く、塁のアルファとしての本能を否応なしに刺激してくる。  だからこそ、半ば強引に碧のオメガとしての本能を剥き出しにした。  自分を誘うように満ちていく碧の甘い匂い。どこにでもいるような黒髪黒瞳のいたって平凡な青年なのに、潤んだ瞳で塁を見つめるその姿は最高に淫靡な雰囲気を纏っている。 「……っ、あ、やっ」  じゅっと音がするくらいに真っ赤に腫れた乳首を強く吸い上げれば、かわいらしい声が漏れた。思わず、というように、指を噛んで痛みを求める碧の手を絡めとり、今度はその指に舌を這わせる。  ぎゅっと唇を噛みしめ、それでも堪えきれずに喘いでいく碧の姿に塁もまた煽られていく。 「……ココ、どろどろ」  既に膨れ上がったやや小ぶりなペニスを素通りし、その奥にある窄まりに指を滑らせれば、そこは期待以上に濡れて柔らかく蕩けていた。  初めてかと尋ねれば、碧は小さく頷く。たったそれだけのことに、ぞくりと背筋が震えた。 「ふぁっ、あ、それ、やぁ」  くぷくぷと指先だけを細かく出し入れすれば、碧はこらえきれないというように腰をピクピクと震わせ、爪先をきゅっと丸め込む。  オメガみたいなのはダメ、と碧は自分がオメガであることを否定するような言い方をしていたが、塁に言わせれば、碧は間違いなく最高のオメガだ。恥らいながらもアルファである自分にその身を委ねていく様は、なんとも言えない満足感を塁に与えてくれる。  ゆっくりと指を奥まで押し込めば、碧のナカは歓喜するように波打ち、オメガの濃く甘い匂いがさらに立ち込めた。 「いいにおい」  指を増やしながらぐちゅぐちゅと音がするほどナカを激しく掻き回し、イイところを突き上げるよう刺激すれば、碧の身体はオメガらしくアルファを誘うように柔らかくほどけていく。  もっともっとこのオメガが淫らに乱れる様が見たい――そんなことを思いながら、真っ白な肌の至る所に吸い痕を残す。 「碧」  顔を覗きこめば、とろんと半ば意識を飛ばしたような潤んだ瞳が自分を見上げた。そろそろか、と頃合いを見計らって指を引き抜き、力の入らない碧の両脚を抱え上げる。  と、碧の唇がかすかに動いた。 「……ん?」 「……塁、は」 「うん?」 「塁は、……おれで、勃つ?」  小さな声でそう尋ねた碧は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。  何を今更、と軽く笑い飛ばしてやろうかとも思ったが――、ほとんど理性など残っていないはずなのに、それでも口にするということは、それだけ碧の奥深くに刻まれている何かがある、ということだ。  こんなに発情しきったオメガを目の前にして勃たない役立たずなアルファがいるか、と思いながらも、オメガとしての自己評価がとにかく低い碧を冷たくあしらう気にはなれない。 「心配いらねぇよ」  だから、塁は碧の手を取り、いつになくガチガチに硬くなった自分のペニスをあえて握らせてやる。 「コレでたっぷりナカかきまわしてやるから」  大きく見開かれた碧の瞳から、ぼろりと涙が零れ落ちた。 「言ったろ――安心してオメガになっとけ、って」  瞳の奥を見据えたまま、少し焦らすようにペニスの先端を窄まりへと擦りつければ、涙を流す碧の赤い唇から、かすかな喘ぎ声が零れ落ちた。  それを合図に、塁はペニスをゆっくりと碧のナカヘ潜り込ませていく。  熱くねっとりと絡みつき奥へ奥へと誘うように蠕動するオメガらしいその反応に、塁もアルファとしての本能を引き摺り出されるような感覚に襲われた。  指と指をきつく絡ませ動きを封じ、貪るように唇を食んで舌を伸ばして互いの唾液を交換する。噎せ返るほどの甘い匂いが、ただただたまらなく心地良い。  このオメガだ、と塁のアルファとしての本能が叫ぶ。  ナカを抉じ開けるように、少しずつ抜いては突き入れ、突き入れては抜き、じわりじわりと時間をかけて碧を犯していく。単調な動きでしかないのに、それだけで気持ちいい。  誰にも汚されていなかったまっさらなオメガを、今、自分だけのものにしているという征服欲に満たされていく。 「……っぁ、あ、あ!」  奥までゴリっとペニスが嵌まり込んだ感覚と、根元までみっちりと埋め込まれた感覚に、背筋がぶるっと震える。激しく動いたわけでもないのに汗がぼたぼたと垂れて、碧の肌の上に落ちた。  ナカをガンガン突き上げて泣かせてやりたい気持ちもある。けれど、それ以上に塁の中から強く湧き上がったのは所有欲の方だった。  アルファの本能に逆らうことなく奥の奥まで潜り込み、じわじわとペニスの根元に熱が溜まって碧のナカで栓になるのをじっくりと待つ。  これで射精し尽くして空っぽになるまで碧と離れることはできなくなるが、もはや塁にとってそんなことはどうでもよかった。  そんなアルファの動きをオメガの本能が感じ取ったのか、碧のナカが激しくうねり始める――まるで、塁の射精を促すかのように。 「すげぇ、いい」  塁の正直な感想だった。 「射精()していい?」  とろとろに蕩けきったオメガらしい表情を浮かべる碧に問いかける。 「碧の奥に、……射精したい」  別に許可をもらう必要などないのだが、それでも、一方的にアルファの欲を満たすのではなく、この目の前のどうしようもなく頼りないオメガの心を満たしてやりたいと、塁はそう思ってしまった。 「碧、……いい?」  じっと瞳の奥を覗きこんでいると、碧の唇が小さく動いた。  うれしい――、と。  その四文字の言葉を理解した瞬間、塁の中の箍が完全に外れた。  アルファの長い長い射精が始まる。  その間、何度も名前を呼び、何度も唇を重ね、何度も呼吸を奪い合いながら、何度も互いの唾液を飲み干した。  アルファとオメガが溶け合うと、これほどまでに気持ちがいいのか――  孕ませるかのように、大量の精液を奥の奥まで擦りつけ馴染ませる。もちろん孕みはしない。が、いっそ孕んでしまえばいいのに、と心のどこかで思っている。  これまで、自分のアルファの匂いを相手に残すようなことはしたことがないし、したいとも思わなかった。  けれど今は、自分の存在を知らしめるように碧のすべてに自分のアルファの匂いを移し、隅から隅までマーキングしてしまっている。 「……っ、あ、ぁ、塁、塁、塁っ」  甘く掠れた声で自分の名を呼びながら絶頂し意識を飛ばしたオメガを、そう簡単に手放せるわけがない。  ぐったりと弛緩した碧の身体を抱きしめながら、塁は初めてアルファとして満たされる感覚に浸り、言葉では表せないほどの幸福感をかみしめた。

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