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<多難の佑誠・後編>

「早かったじゃん、さっき連絡したばっかなのに」 「オマエが関わるとロクなことがない」 「ひっどーい」  外見は“王子様”だが、態度は“王様”――玖珂嶺 塁にはそんな噂もあったことを思い出す。そして、それは確かだと身を以て佑誠は実感した。  間近で見る最上級のアルファは、ベータの佑誠から見てもめちゃくちゃ男前でカッコイイ。が、向けられる視線は冷たく、鋭く突き刺さって全身血まみれになりそうだった。 「えっと……アオとは高校から一緒で、あ、萩原 佑誠です」  そう自己紹介しつつ、ただのトモダチですし、ベータですし、と心の中で必死に付け足す。 「ゆーせークンね、今後とも色々ヨロシク~」  そう答えてくれたのは棗の方で、肝心の塁の方は早々にこちらに興味を失くしたのか、碧へと視線を向ける。 「行くぞ」 「え、あ、でも」 「碧」  滅多に学食に姿を現すことのない塁を見て、周囲が騒がしくなり始めたのを察したらしい。 「またね、アオイくん」 「じゃあ、またあとでな」  碧から詳しい話を直接聞きたいところではあるが、今のこの状況では無理だろう。どこへ連れて行かれるのかは知らないが、困ったような、焦ったような、でもどこかオメガらしい表情を見せる碧を見送って、ようやく佑誠は肩の力を抜いた。 「……あんな感じなんですね、玖珂嶺サンって」 「ん~、というか、あれはボクにも予想外」  図らずも二人取り残される形となってしまったが、棗が席を立つ気配はないので、せっかくなので話しかけてみる。  と、よほど誰かに訴えたかったのか、次から次へと愚痴が零れ出した。 「だってさ~、ボクが発情期だから助けてって言っても『めんどい』の四文字で素っ気なく断るようなヤツがだよ?」 「はぁ」 「まさか見ず知らずのオメガにめろめろになってるなんて信じられないじゃん?」  めろめろ、確かにあれはめろめろに見えなくもない。そうでなければ、どこからどう見てもベータの佑誠に対して、あんな風に威嚇することはないはずだ。   「しかも、番候補の件は解消するから、って一方的に言い出すしさ」  要するに、番にしたい子が見つかったってことでしょう、と棗は言う。その相手を教えろとしつこく粘りに粘った結果、どうにか名前だけは聞き出すことができたというのが事の顛末らしい。 「それでわざわざアオに会いにきたんですか」 「だって気になるじゃーん……本人にはちょっと申し訳なかったけど」  確かに、あんな風に碧を脅すような真似をする必要はなかったはずではある、が。 「……もしかして、北星サン、実は玖珂嶺サンのこと好きだったりとか」 「ないない、それはないね、ありえない」  もしや本当に嫉妬心から、と少し心配になったのだが、棗はあっさりと否定する。 「ただ、玉の輿目当てのバカなオメガだったらブン殴ってやろっかな、って」  番候補ではないけれど大事な友達ではあるからね、と棗は笑った。佑誠と碧のように、棗と塁もまた高校時代からのつきあいであるらしい。 「……アオは純粋で、ほんといいヤツなんで……お手柔らかに、お願いします」 「大丈夫、大丈夫! でも、ほんと、泣きそうな顔とかちょうかわいかったー!」 「……くれぐれも、お手柔らかに頼みます」  可憐な見た目のわりに棗の中身はだいぶSっ気が強いような気がする。 「っていうか、あの二人よりも問題はボクだよ」 「はぁ」 「番候補いなくなるとさー、いろいろと面倒なんだよねー」  あの様子では碧たち二人が噂になるのはもはや時間の問題だ。そうなれば、当然フリーとなった最上級のオメガである棗に対して、チャンスを逃すまいと多くのアルファたちが言い寄ってくるであろうことは予想がつく。 「大変そうっすね」 「あ! てかさ、ゆーせークン、番候補にどう?」 「すんません、俺、ベータなんで」 「えー、いっそベータとオメガの一途な恋とかさー、いいじゃん、いいじゃーん」 「遠慮しときます」  棗にしても塁にしても、同じ大学に通っているとはいえ佑誠たちとはどこか別の世界の人たちのように感じていたのだが。なんだよけちー、と頬を可愛らしく膨らませてみせるあざとい棗に、佑誠はなんだか脱力感を覚える。  せっかくだから連絡先交換、とまさかの美人オメガとお近づきになってしまった佑誠ではあったが、なんだかんだと面倒事に巻き込まれていくような気がしてならないのだった。

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