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第二話 この愛に隔てなど無い 2
街から少し離れてきたからか、ウェアの嗅覚が微弱だが戻ってきた。街で人間に気付かれたことはこれまで一度と無い……女の子は驚いた表情でウェアを見つめる。
「何で……分かったの?」
狼男
「何か獣の匂いがする。この匂いは……キツネ?かな?」
「………!!」
魔女
「あら、随分詳しいじゃない……お気に入りの動物なの?」
狼男
「美味しいよ、柔らかくて。」
ハハハっと微笑むウェアの牙を見た瞬間、女の子が恐怖で腰を抜かした。
狼男
「いや、ちょ……冗談だよ!君を食べたりはしないって!!」
ドラキュラ
「ちょっと誰か!この野蛮な狼、檻に放っといて!!」
狼男
「お前な……(怒)」
ミイラ男
「ごめんね?このお兄ちゃん達本当はとっても優しい生き物だから大丈夫だよ。怖かったらもう見なくていいからね。俺とリリと一緒に居ればいいよ。」
ドラキュラ
「……こんなんと一緒にしないでくれる?」
狼男
「そっくりそのままお前に返すわ。」
「食べられちゃう……」
軽く言った冗談のはずが、女の子はガタガタと震え出したのだ。焦ったウェアが弁解しようとするが、女の子にはまるで彼の声が響いていないようだ。
狼男
「……いやだから、食べないってば!」
「みんな、みんな……食べられちゃう!!」
狼男
「だか……」
パニックになってしまっている女の子の話を必死に否定しようとするウェアを、ジョシュアがスっと止めた。
ドラキュラ
「みんなって?」
「……私の家族が、あのレオパード達に……」
長い舌を絡ませるその骨にはもう肉片は微塵もついていない。全て綺麗に平らげた後で、未だその余韻に浸っているのだ。二頭のレオパードが岩の陰に寝転びくつろいでいる。骨を旨そうに舐め上げる片割れが、向かいで毛づくろいをしているもう一頭に話し掛けた。
ニック
「……ガキが3匹、母親とその姉……」
ザック
「奴らをただ飯にしただけでは二日分の食事にしかならん。」
ニック
「ガキに盗みをさせたところで大した稼ぎにもならんだろう。あと何年か待ってメスの方を売るか?」
ザック
「ヒョウや鹿ならまだしも、メス狐なんかに需要はねぇだろ。」
ニック
「一部の奴らには人気があるらしいぞ。あのフワフワな手触りの毛質と誘うような怪しい目つきがたまらんとか……」
ザック
「くだらん。」
「……奴らが来たわ!皆隠れて!!」
その警告を聞くと、母とじゃれ合って遊んでいた子狐達が巣穴に隠れ互いにぴったりと体を合わせて震えている。母狐ダフィーとその姉のローザが巣穴の入り口を塞ぐように座る。
ザック
「……安心しろ、今日は俺一人だ。」
「……あ!ザックだ!!」
彼の声を聞いた子狐達が、尻尾を振りながら巣穴から出てきた。クンクンと彼の匂いを嗅ぎ、遊んでくれとすがる子狐たちと尻尾で相手をしてやるザック。子狐達からは怯えている様子も、警戒している様子も見受けられない……むしろ彼にとても懐いているように見えるのだ。だがそんな子狐達とは打って変わってこのローザという名の狐はザックを軽蔑するように、まるで仇を見る様な目つきでザックを見つめている。
ローザ
「その子達は渡さないわ、さっさと消えて。」
ザック
「俺は別にこのガキ共に用は無い。こいつらの存在を面白がっているのは兄貴達だ。」
ローザ
「……よく言うわね、その子達の父親と残りの家族を皆殺しにしておいて……この血に飢えた化け物が!!今すぐ消え失せろ!!」
ガルル…と牙を剥いてザックを威嚇する姉のローザをダフィーが抑え、ザックを庇った。
ダフィー
「やめて、姉さん……。なぜ私達が今でも生きているのか、姉さんにも分かってるはずよ……あの時ザックが助けてくれたからだって。」
ザック
「………。」
ダフィー
「何の用で来たの?」
ザック
「……お前に会いに来た。」
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