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第二話 この愛に隔てなど無い 5
酒を運んできたウェイターにザックが金貨を渡す。
魔女
「いいの?ご馳走になっちゃって……」
ザック
「あぁ、さっきの詫びだ。遠慮なく飲んでくれ。」
乾杯をし、ビールジョッキを掴むクリスの肩にそっと触れる手。みんなの前だという事にも構わずに、こうして触れてくるジョシュアの手を払おうと思ったが……広間で彼が自分のためにあんな風にザックに怒ってくれた事や、ララに優しく接してくれた事を思うと今はきっと彼の好きにさせてやるべきなのだろう。クリスはその手を自分の首に挟み、愛おしく頬で撫でた。
ドラキュラ
「……………。」
右側に座るジョシュアが左手にワイングラスを持ち、こちらを見つめて固まっている。……何故その左手はグラスを持っているのだろう?ならば今この肩にのっている手は誰のもの?クリスが恐る恐る左側を向く………。
ザック
「……あー……えっとー……。」
ミイラ男
「………!!!」
それは、先程爪を立てた時に切れてしまった傷跡を心配したザックの手だった。
ザック
「傷、平気か?悪かったな……」
ミイラ男
「いや……へ、平気だよ!」
まるで恋人のようにこの手にすがったクリスに戸惑いを隠せないザックと、「しまった…。」とジョシュアの方を向けないクリス。リリは何も言わず、二人を凝視しながらワインを嗜んでいる。すると今度は右側から伸びてきた手がクリスの腰を掴み、クイっとそちらの方に引き寄せた。
ドラキュラ
「ちょっとあんた、やめてくれる?こいつは俺のだから。」
ザック
「………?」
ジョシュアの発言に首を傾げるザック。そんな彼に、リリがワイングラスをコースターの上に置き説明した。
魔女
「さっきのは冗談じゃなくて、本当にこの二人は恋人同士なのよ。」
ザック
「………!!」
きっと言葉を失ってしまったのだろう、ザックが驚いた表情で二人を見ている。
ドラキュラ
「……そんな珍しい生き物見るみたいに見つめないでくれる?(怒)」
ザック
「お宅らゲイなの?」
ミイラ男
「認めたくない……俺はまだ認めたくないんだ……」
「うぇ~…」泣き真似をしながらビールを飲むクリスの背中をポンポンっとザックが軽く叩いた。
ザック
「まぁでも、好きならそれでいいんじゃねぇの?」
ミイラ男
「………!」
好きならそれでいい……そんな簡潔な考え方をした事はあっただろうか?無理に理由や目的を見つけなくてもいい、という事なのか?何だかいいアドバイスをもらえた気がして気持ちが軽くなる。顔をしかめたりせずにむしろ背中を押してくれるザックはきっと良い奴なのだろうと、クリスはそんな彼に微笑み返した。……そしてそんな二人のことを先程からじーっと隣で見つめている男が言った。
ドラキュラ
「さっきから何か俺……妙な危機感を感じるのは何でなの??」
「クリス、迷っちゃだめだよ!俺はここにいるよ!」とクリスの両腕を掴み揺さぶるジョシュアと鬱陶しそうに視界を上にするクリスの横で、一つ小さくため息をついたザックがビールジョッキを傾けて中身を見つめながら話し出した。
ザック
「あれは五年前……」
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