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第二話 この愛に隔てなど無い 7

「………ザックだ!みんな、ザックが来たよ!」 ザック 「一年でこんなに大きくなるんだな。」 ダフィー 「あっという間ね。」  サラサラと春風になびく彼女の柔らかい毛が躍る様に揺れ合う。その長く濃艶(のうえん)なまつ毛がゆっくりと閉じ、また開かれる……。そんなワンシーンがこの目に映るだけで、この心は暗闇の中で燃えるかがり火の様にそっと静かに、それでいて激しく赤々とその炎を揺らすのだ。……いっその事、このまま激しく彼女を抱いてしまおうか。自らの持つその色気に気がついてはいないのだろう。彼女はいつもケロッとした顔で「どうしたの?」などと聞いてくるのだから。 「はぁ……。」とため息をつき、彼女に毛づくろいをしながら走り回る子狐達を一緒に見守る。あんな子ネズミのようだった子供達も今ではもう狐らしい立派な尻尾を持ち、すっかり大きくった。あの時自分が食べてしまっていたら、彼等が今こうして元気に走り回っている姿を見ることも無かったのだ。そんな事を考えながらザックはまた立ち上がり、ダフィーを残し巣穴を出る。振り向きざまに何が食べたいかと訊ねるザックに、ダフィーは「うーん……」と少し考えてから答えた。 ダフィー 「ネズミ。」 ザック 「……すぐに戻る。」  盛り上がった土を見つけては匂いを嗅ぎ、中にいるかどうかを確かめる。土の振動を見て、今ネズミが地中のどこの道を通っているのかを把握すると先回りをして出口から出て来るのをじっと待つ……狩りに忍耐力は欠かせないスキルだ。そのネズミの巣穴からは二匹、別の場所の大きな朽ちた丸太の下からは五匹、逃げない様に全て息の根を絶ってからまとめて尻尾をくわえてダフィー達の巣穴へと戻るため来た道を戻る。 「……そんなにたくさんのネズミを、一体どうするつもりだ?」 ザック 「………!!」  ネズミの匂いに気を取られ、その気配に気付く事ができなかった。だがその声の持ち主が誰なのかはすぐに分かった。 ザック 「ちょっと小腹が減ってな。」 「お前があのメス狐を匿っていることは知っている。」 ザック 「何の事だ?」 「とぼけても無駄だ。」  肩を上げ頭を降ろし、その者はいかにも肉食獣らしく怪しく歩み寄る。鋭い目付きでザックを見上げると彼の心を読み取る様にじっと見つめた……。 「この事をニックが知れば、よだれを垂らして飛んでいくだろうに……」 ザック 「勘違いをするな、子供が育つまで待つつもりだっただけだ。」 「ほう……たかが狐をか?」  ふふふ……と可笑しそうにザックをあざ笑う。 「牛ほどの大きさの生き物ならまだしも、あんな夜食にもならん量の肉を狩るために餌付けまでして育てるとは……やや辻褄が合わんじゃないか。」 ザック 「あれは俺の獲物だ。お前らは他の狐を食っただろう。腹が減っているなら自分で狩りに行け。横取りをするつもりなら相手になってやる。」 「ふふ……まぁ様子を見るとしよう……夜にはくれぐれも気を付けるようにと子狐に教え込んでおけ。」  不気味な笑みを浮かべ、その者は去って行った。  ワイングラスを傾けながらザックの話に相槌を打つジョシュア。異種間の恋愛の苦悩なら自分にもよく分かる。……こちらはその上、同性なのだ。 ドラキュラ 「……まーた厄介なのに惚れ込んじゃったねぇ、お宅も。」 ミイラ男 「………?」  「……聞き捨てならん」とでも言いたげに、クリスが少し大袈裟にジョシュアの方に振り向いた。 ザック 「そうだな。」 ミイラ男 「でもニックって言うのは兄貴なんだろ?そう簡単に縁を切れないしね。」 ドラキュラ 「簡単に切れるだろ、そんなの。」  そう即答したジョシュアは珍しくあの冷たい顔をしている。どうして彼はそんな薄情な事を言うのだろうか。共に育った兄弟ならば多少は絆で結ばれているはず……仲が悪い兄弟でもいるのか? ザック 「問題はニックじゃねぇ……」 ミイラ男 「………?」  その時カランカラン……と響いた鐘の音と共にバーのドアが開いた。「おまたせ。」とウェアが片手をあげこちらに歩いて来る。 魔女 「遅かったわね。」 狼男 「ちょっと途中でコーヒーの匂いに負けて迷子になりかけちゃって………(笑)」  えへへ……と鼻を抑えながら苦笑いをするウェア。 ザック 「悪いな、助かった……あいつら無事だったか?」 狼男 「うん、子狐が二匹とママ一匹でしょ?みんな無事だったよ!ララの洋服、ありがとうってさ。」 ザック 「もう片方の親狐はどうした?」 狼男 「え?パパも居たの?いや、親狐は一匹だけだったけど………」 ザック 「そいつの尻尾、先っぽ黒かったか?」 狼 「え?いや……白かった気がする……でも何かその親狐ちょっと元気が無かったみたい。子守に疲れちゃったのかな?と思ってララちゃん置いてすぐに帰ってきちゃった。」  ガタっと立ち上がったザックが何も言わずにバーを出て行った。急いでジョシュア達がその後を追う。日が暮れ始めている……嫌な予感がしてならない。 「子狐ちゃん達なら、安全な場所に避難しているよ。」  驚いて声の方を振り向くと、そこにはニッコリと微笑む男が立っている。 魔女 「……あなたは?」 「僕はトニー、あの子達の叔父だよ。子供たちは平気だけど、母親はあのレオパードに連れ去られてしまった……急いでザックに知らせようと匂いを辿って来たけれど……行き違いだったみたいだね。」 ドラキュラ 「今からザックを追いかける所だ。」 トニー 「うん、君達なら奴らと互角に戦えるかもしれない……恥ずかしながら、僕もローザも大人とはいえたかが狐。こんな事をお願いするのは差し出がましいけれど……君達二人でも、僕と一緒に子供達を守ってくれないかい?」  彼はそう言ってリリとクリスの手を取り懇願した。 ミイラ男 「ジョシュ、俺子供達を守るよ。」  「分かった」と頷いたジョシュアがリリとクリスを街に残し、ウェアと共にザックを追いかけた。 ドラキュラ 「ザックの兄貴があんまり良い奴じゃないのは分かったけど……もう一匹の方は誰なんだ?親父か?別の兄弟か?」 狼男 「さっき道に迷ってた時に助けてくれたフクロウが言ってたけど、この辺りには質の悪いレオパードが居るから気を付けろって………何か裏の組織とも絡んでるんだってさ。」 ドラキュラ 「たかがネコ科の動物が裏の組織だ?冗談だろ。」 狼男 「え、お前知らねぇの?マフィアとかって猛獣を番犬代わりに屋敷に置いておくんだよ。今時じゃあネコ科の肉食も上手くしつけられて飼われてるなんて珍しい話じゃないよ。」 ドラキュラ 「コーヒーの産地か……お前の鼻も利かなくなるくらいだしな。薬物の密輸とかと関係が無いとも言い切れない訳か。」 狼男 「恐らくは。」  街から少し離れた裏山の中腹にある岩場に辿り着くと、血相を変えたザックが丁度巣穴から出てきた。 ザック 「子供たちは無事だ。だがダフィーがあいつらに連れ去られた……」 ドラキュラ 「場所に検討は?」 ザック 「………ある。」

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