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第二話 この愛に隔てなど無い 10

ザック 「ダフィー……!!」 ダフィー 「…………!!」  驚いた表情で振り向いたダフィーをきつく抱きしめた。その首元の匂いを深く吸い込み、「もう大丈夫だ」と囁くザックの胸にダフィーが顔を埋める。 「奴がもうじき現れる……その前にその女と子狐共を連れてこの街を出ろ。」 ザック 「あんたは……」 「私もニックと共に旅立つつもりだ。」 ザック 「そうか………。」 ドラキュラ 「誰なんだそいつ?」 ザック 「これは俺の母だ。」  クンクン……と鼻を利かせたザックの母が、怪しい笑みを浮かべ二人に問い掛けた。 「狼だな……そっちのお前は独特な顔つきだな……吸血鬼か?にしては血の匂いが薄いな。」 ドラキュラ 「俺はあんまり血を飲まないからね。それよりその奴ってのは……?」 「人間の男だ。名をトニー・マティーナという……ババロンというマフィアの幹部だ。」  トニー……どこかで聞いた名だ。記憶を遡ってその者の顔とトニーという名前を照らし合わせるジョシュアとウェア。そしてハっとした表情で二人は互いに指差し合った。 ドラキュラ、狼男 「………!!!」 ザック 「……トニーを知っているのか?」 ドラキュラ 「そいつ……手にタトゥー入ってるか?」 「あぁ、それが奴のトレードマークだ。」 ドラキュラ 「くっそ……!」 狼男 「早く戻ろう!リリ達が危ない……!」 ドラキュラ 「端っから俺らの事を知ってて近付いて来たってことは、もう今頃は攫われてるだろうな……おいあんた、そのトニーって奴のアジトを知ってるか?」 ザック 「どうした?二人に何かあったのか?」 狼男 「ザックがバーを出たすぐ後に、俺らは一度トニーと接触してるんだ。」 ザック 「……あいつがもうこの街に?」 「急げ、今すぐこの街を出て行け。」 ザック 「……いや、俺はこの二人をトニーの所まで案内する。」  マフィアのアジトに乗り込んで生きて帰れる保証など無い。子狐達には……そして何よりもこの自分にはザックが必要なのだ。 ダフィー 「駄目よ……あなたまで……!」 ザック 「この人らを巻き込んだのは俺達だ、責任を取るのは当たり前だ。」  彼の言う事は正しい。そんな責任感の強いたくましい彼だからこそ、ダフィーは好きになったのだ。案内してもらえればそれが一番手っ取り早い話だったが、この二人を引き裂く気にはとてもなれない。 ドラキュラ 「最悪は自分たちで探し出すから別に無理しなくても良いよ、大まかな道だけ教えてくれればあとは何とかする。」  そう言ってセンスを使うジョシュアの赤い瞳を見たザックの母は、こう言った。 「その眼……お前ただの吸血鬼ではないな。名は?」 ドラキュラ 「ジョシュア・ターナー。」 「……あのターナー家か?」 ドラキュラ 「そうだ。」 「ならば話は早い……トニーはかつてライアンの率いる組織、ダンテの一員だったことがあると聞いた。ターナー家には跡取りが二人いたな……ライアンでないとなると、お前は弟の方か。」 ドラキュラ 「あまりそう何度も聞きたくない名前だな。ザック、行くなら早く案内してくれないか?今は一秒でも惜しい。」 ザック 「あぁ。母さん、一生の頼みだ……俺が戻るまでダフィーや穴倉に居る子供達を守っていてくれ。」 「よかろう。」  ザックからの頼みを聞き、むくっと起き上がった母はダフィーを背にのせその場を去った。大きく揺れるザックの母の背中から落ちない様、必死にしがみつくダフィー。 「ザックがお前に惚れ込んだのか?」 ダフィー 「……ええ。初めはいつか私達を食べるつもりなんだと思って、逃げる隙を見ていたの。でも彼はそんな素振りを見せなかった。最初は戸惑ったわ………だけど段々と私も彼の優しさに惹かれていった。」 「きっとどこへ行ってもザックは後ろ指を指されるであろう……。」 ダフィー 「……えぇ、分かっています。」 「だが……それがどうした?」 ダフィー 「…………?」 「私もそうして生きてきた。同種とはいえ血の繋がっていない赤子を拾い、自らの子として育てることをあざ笑う者達は数え切れぬ程()った。……だが、それがどうしたのだ?そんな程度で揺らぐ愛など、そもそも続きはせぬ。お前達が心から互いを想い、互いのその愛を慈しみ、そしてそんなお前達を見て育つ子供達は一番身近な場所から愛の意味を学ぶのだ。それでいい、間違ってなどいない。」 ダフィー 「……はい……!」  ザックの母からの激励を受け、胸がいっぱいになり涙を流すダフィー。自分も母になった今、彼女の言った言葉の意味が、その言葉の重みがよく理解できる。育ての大先輩でもある彼女からのそんな言葉は不安で揺らいでいたダフィーの芯をがっしりと支えた。そして、ザックの母は続けてこう言った。 「これだけは覚えておきなさい……」 ダフィー 「………?」 「互いを想う心に……その愛に、隔てなどないのだ。」

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