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第三話 真実への褒美、欺きへの天罰 2

「先を急ぎます。捕まっていて下さい。」 トニー 「………あぁ。」  左右の翼の先から先までが4m程はある漆黒の色をした鳥が、自らに(またが)(あるじ)にそう忠告する。楽しみはこれからと言う時に邪魔者が入った。……かつてこの身を置いていた、マフィアの中でも有数な大型組織ダンテ。その王座に座るあの男の弟が相手では、ここは引くしかない。……あの甘い匂いのする金髪の少年、彼を感じさせていたその指を眺めて余韻に浸るトニー。 魔女 「……逃げる男はモテないわよ。」 トニー 「……!!」  キラキラと紫色に輝く気体の上で横座りをしたリリが、地上から遥か高くの空中でトニーに話し掛けたのだ。これにはさすがのトニーも驚きを隠せないでいる。 トニー 「お前……どうやって……魔女なのか?」 魔女 「んふふ……ご名答。」 トニー 「どうやって部屋から出た?鍵が掛かっていたはずだ。」 魔女 「魔女にそんな物通用しないわ。入る前に一度ドアノブに触れて型を取っておいたのよ。中級の魔女にもなれば合鍵を作りだすのなんて、陣を書く必要もないわ。」  「ほらね」とわざとらしく鍵を見せびらかすリリに続けて問い掛けた。 トニー 「いつから俺の正体に気付いていた?」 魔女 「子狐ちゃん達にオスの親戚は居ないはずよ……みんな食べられちゃったらしいからね。」 トニー 「俺と交渉するつもりはあるか?答えによっては生かしておいてやろう……お前、中々使えそうだしな。」 魔女 「いいわ、仲間になってあげても。」 トニー 「話の分かる女はモテるぞ?」  そう言って怪しく微笑んだトニーに、リリもまた微笑み返した。互いに何かを隠している事には気付いてはいるが、あえてそれ以上の探りは入れずに様子を見る二人。さて、リリの目的とは一体……?  ジョシュア達は一度狐達の穴倉に戻り、そこで見張りをしていたザックの母に事情を説明した。 ドラキュラ 「あのトニーって奴の行きそうな場所、どこか心当たりはあるか?何でもいい……知っていたら教えてくれ。」 「お前の兄貴に聞くのが一番早いだろう……仲が悪い兄弟なのは察するが、そうも言っていられまい、事が事だ。」 ドラキュラ 「……そうだな。お前たちはどうするんだ?ここに残るのか?」 「こちらも居場所を移すべきだろう。いつまたトニーや奴の手下の者がお前のことを探りに来るか分からん。」 ミイラ男 「何?お前ん家って訳アリなの?」 狼男 「ジョシュ、お前まさか……クリスにまだ言ってなかったの?」 ドラキュラ 「………。」 ミイラ男 「え?何を??」  それについてはジョシュア本人から言い出さない以上、知っている他の者が代わりに言う事はできない。皆がジョシュアの回答を待つ中、ダフィーが口を開いた。 ダフィー 「子供たちの足で長旅をするには無理があるわ……」 ザック 「順番に俺の背中にのせてやる。」 ドラキュラ 「はぁ……。」  深くため息をつき目を擦るジョシュア。そしてクリスの両肩を掴み、申し訳なさそうに彼の顔を見つめて白状したのだった。 ドラキュラ 「黙っててごめんね、クリス……」 ミイラ男 「………?」  キョトンとした顔で自分を見つめる純粋なクリス。そんな彼に申し訳なくて、言いづらくて、ジョシュアは言葉は詰まらせる……。 ドラキュラ 「ターナー家は殺し屋なんだ。」

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