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第三話 真実への褒美、欺きへの天罰 7

 持っていたビールジョッキをベッドの傍のサイドテーブルに置き、着ているフード付きのノースリーブをバサっと脱ぎ捨ててブーツを抜いだ。 起き上がったジョシュアがクリスの隣に座り、その背中を包帯の上から優しく撫でる。 ドラキュラ 「お前って筋肉質だよな、鍛えてんの?」 ミイラ男 「運び屋だからね。特に鍛えては無いよ、重い物持ち上げたり運んだりしてると自然と筋肉がつくんだよ。」  ジョシュアはクリスの話を聞きながら彼の肩の包帯を外す。艶のあるその素肌が、ジョシュアの下心を誘うように甘い香りを放つ。……まただ、またこの匂いだ。その匂いは初めてクリスとキスをしたあの夜、彼の首元から漂っていたのと同じ匂い。この少年に何かがあるのはずっと前から何となく察していた。隠している?もしくは自分を欺こうとしている?目的があるのか?そんな事を考えたこともある。だがいつだって彼がジョシュアに見せるのは、そのあどけない純粋な顔。いっそのことセンスをつかってしまおうか……まどろっこしい駆け引きは嫌いではないが。 クリスの身体が放つ甘い匂いが、ジョシュアの理性を奪う。何度も意識を持っていかれそうになっては正気に戻り、その繰り返しの最中でクリスが漏らす鼻息に、つい負けてしまいそうになるのだ。 ミイラ男 「ジョシュ、お前……エロい。」 ドラキュラ 「お前ほどじゃないよ。」 ミイラ男 「………?」  きっと自覚がないのだろう、下を向いたその火照った顔、はぁ……と堪えるように弱く吐く息、ジョシュアに寄りかかるその可愛らしく、いやらしい身体。 前に座るクリスの肩の上から顔を覗かせ、振り向く彼の下唇を少しだけ舌で舐め、味わいながらキスをする。 ミイラ男 「……ジョシュ。」 ドラキュラ 「………?」  一瞬だけ顔を反対側に背け、ジョシュアの唇を拒んだクリスがジョシュアの名前を呼んだ。少し戸惑った表情をしたジョシュアがクリスの瞳を覗き込む。 ドラキュラ 「……どうした?」 ミイラ男 「ジョシュ……噛んで。」 ドラキュラ 「………!」  そう言って自らの首をジョシュアに差し出すクリス。……信じられないシチュエーションだ。あまりにも好みな誘い方に、ジョシュアの口が空いたままになっている。 ドラキュラ 「お前……ヴァンパイアの取扱説明書でも読んだの?」 ミイラ男 「……は?」  「何言ってんだお前は」としかめっ面になるクリス。そんな彼が一体どういう心境なのか読めず、ジョシュアは少し考えてから間を置いて答えた。 ドラキュラ 「……クリス、俺はことは気にしなくて良いよ。お前が無事に帰って来れただけで充分だから。」  ……こんな時にでも、この男は自分の欲を優先しない。 ミイラ男 「ちげぇよ……。」  何についてこんなに苛立つのかさえも分からないでいるクリスは、俯いて唇を噛みしめた。 ドラキュラ 「………?」 ミイラ男 「……俺を、お前だけのものにしろって言ってんだよ!!」 ドラキュラ 「………!」  涙目でそう訴える彼を、このまま抱いてしまえばいい。裂ける痛みのその中にも、僅かな快楽はきっとあるはず。そして蓋が閉まらない程に溢れていたその罪悪感という名の生き地獄から解放された瞬間、彼は生を感じられることだろう。 「壊してしまいたい。」そう思ったことが無い訳ではない。……幾度か、その場の感情に身を任せ「やめろ」と叫ぶ彼のその口を塞ぎ、中に入れてしまおうとしたのは確かだ。だがそんな空虚な行為の後に襲い来る虚無感がジョシュアには痛いほど理解が出来るのも又、確かなのだ。

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