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第四話 思い出の蓋を開けて 1
それは次の日の早朝、木の上の巣穴で羽をパタパタと払い、新しい一日の準備をする小鳥がピピピーと鳴く。その鳴き声は霧のかかった林に響き渡り、少し肌寒い空気は多少湿気を帯びてはいるが透き通っていた。
死神
「悪かったな、急に離れしまって……急ぎだったんだ。」
ドラキュラ
「あぁー……そのことなんだけどね?」
死神
「………?」
ー 30分前 ー
死神界から戻ったリーパーが一晩かけてジョシュア達の居場所を突き止め、ホテルの部屋で仮眠をする彼らの耳元で「話があるから外に出てくれ」と告げた。
カチャ……。ジョシュアはクリスを起こさない様にそっと部屋のドアを閉めた。背後で目を擦りながら大きなあくびをするウェアが「あ~あ」と眠たそうな顔で口を抑えている。
狼男
「こんな朝早くに何だっつの。」
ドラキュラ
「リリの事聞かれるんだろうなぁー……どうしよ。ねぇ、どうする?」
さすがにこの時間に出歩いている者は他に居ないみたいだ。二人の足音だけがホテルの廊下に響く。それにしても、死神のモーニングコールとは朝から気分が重くなるものだ。リリの事をどうリーパーに説明しようと頭を悩ますジョシュアに、ウェアは半ば開き直ったようにこう言ったのだ。
狼男
「仕方ねぇじゃん、居なくなったって言うしかねぇだろ。」
ドラキュラ
「じゃあお前が言えよ。」
狼男
「はぁ?嫌だよ……寿命縮められそうだもん……お前が言えよ!」
ドラキュラ
「縮められたら……いいじゃん、狼に戻れば。」
狼男
「何それ?狼に戻ったって寿命は一緒だわ!てかお前長生きだからいいじゃん100年くらい縮められても痛くも痒くもないっしょ?」
ドラキュラ
「100年縮められたら痒い……くらいはするわ!」
「まだかよ……」とイライラしながら待ち合わせ場所で待つリーパー。もしやあのまま仮眠に戻ったのでは?あのアホ共の事だから十分にあり得る話だ。あと五分待って来なければ……どんな仕打ちをしてやろうかと考えていると、二人が手を振りながらこちらに歩いて来るのが見えた。
狼男
「久しぶりだね、元気そうで良かったよ……心配かけやがって。」
死神
「悪かったな、急に離れちまって……急ぎだったんだ。」
ドラキュラ
「あぁー……そのことなんだけどね?」
そう話を切り出したジョシュアの言葉を待つリーパー。ジョシュアはウェアと目を合わせ、「俺が言う?お前が言えよ。」とやり取りをしている。そんな二人を見て呆れたリーパーが視界を上にした。
死神
「何お前ら、中々告白ができない女子?」
ドラキュラ
「………いやぁさ、怒るなよ?そのぉー……お宅の彼女さんが失踪しましてね?」
死神
「…………。」
その真っ黒い眼玉の中で光る青い瞳がギロっとジョシュアを見つめる……。背筋にブルっと鳥肌が立ち、視線でウェアに助けを求めるジョシュア。そんな彼に気付いていながらわざと目を反らすウェアの尻尾をセンスで固定した。
狼男
「だっ……お前!俺のシッポを開放しろ!(怒)」
ドラキュラ
「いや団体責任でしょ?」
狼男
「いやヴァンパイア責任だよ。」
ウェアの上手い返しに一瞬「ふふ…」と微笑を浮かべてしまい、ハっとリーパーを見るジョシュア。彼は相変わらず無表情なままこちらをじっと見つめている……今の彼にはジョークが一切通じないようだ。
ドラキュラ
「いや、リーパー君……違うんだよ?ちょっと取り敢えず聞こうか!話を聞こう!用心棒がちょっと役立たずで……」
狼男
「は?何それ俺のこと?」
ドラキュラ
「…………いや、別にお前とは言ってないじゃん。」
あからさまにウェアから視線を逸らすジョシュアの胸ぐらを掴んだウェアは、牙を剥きだしてこう言った。
狼男
「そもそもリーパーから言伝 受けてたくせに呑気にバーなんかに寄り道してたの誰よ?」
ドラキュラ
「……まぁコーヒーなんかで鼻が利かなくなっちゃうダメなワンコを引き連れて捜索なんかしたところで見つかるのなんてせいぜい鹿の骨くらいだろうしね。」
狼男
「落ちこぼれヴァンパイアの一家代々に伝わるセンスはどうしたの?ん?たまぁーにちょこっと使っただけで『あんまり使うと眠りにつくのが早まっちゃうんだよ~』とか言って何、ただの役立たずじゃん。え?カッコいいとか思ってんの?」
ドラキュラ
「何それ、俺の真似?俺の真似してんの?俺そんなにブサイクな声してないから!」
頼むよ………と呆れて両手で顔を擦るリーパーにお構いなく、二人は言い合いを続ける。そんな時、クリスが手を振りながら三人の元へ走ってきた。
ミイラ男
「急に居なくなるから焦ったじゃん!!何か言ってから行けよ!」
ドラキュラ
「ごめん、起こしちゃ悪いと思って……」
ミイラ男
「ジョシュ、お前……平気なの?」
昨夜の出来事がまだ心配でいるクリス。ジョシュアの腕を掴んで心配そうに顔を覗きこむクリスに、「うん」と微笑むジョシュアはクリスの頭を優しく撫でた。
ミイラ男
「リーパー無事だったんだね!みんな心配してたんだよ……リリが居なくなっちゃったんだ。」
死神
「知ってる。手紙もらってたからな、あいつから。」
ドラキュラ、狼男
「………は?!」
死神
「………ん?」
ドラキュラ
「何お前……じゃあ始めっから知ってたの?」
「うん」と頷くリーパーがそれがどうしたとでも言いた気にキョトンとした顔で爪をいじっている。
ドラキュラ
「死神に欺かれたよ!ちょっと誰か裁判官呼んで!(怒)」
死神
「別に俺は何も言ってねぇけど(笑)」
狼男
「で、これからどうするの?」
ドラキュラ
「取り敢えず実家に帰って狐達を置いて来るつもり。」
ミイラ男
「お前ん家に?どういうこと?」
ドラキュラ
「でけぇ屋敷だし、塀と警備に囲まれてるし……安全かな、と思って。」
死神
「その前にさ、ちょっと寄ってほしいとこがあんだけど。」
ドラキュラ
「………?」
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