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第四話 思い出の蓋を開けて 3

 「この辺りで止めてくれ。」ダニエルからの合図で御者が馬車を止めたのは日が暮れ始めた頃だった。すっかり元気をチャージした子狐達がはしゃぎながら外に飛び出して行く。「また後で。」というとダフィーとザックは子狐達を追いかけ森の中に消えていった。 そこそこな大きさの街が丘の上から見渡せる。そう離れてはいないだろう。うっすらと霧がかかった林の中、細い一本道をリーパーに続いて歩いていく三人。右も左も木や草が静かに茂っている。木々の隙間から屋根のようなものが僅かに見えてきた。だがその建物にはどう見ても人が住んでいる様には見えない。もう何十年……いや、下手をすれば数百年は手を付けられていないようだ。外壁にはツタが生い茂り、屋根は所々朽ちて欠けている。彼は一体、こんな場所に何の用があるというのか。 死神 「ここだ。」  案の定その建物の前で足を止めそう言ったリーパーがローブのポケットから鍵を取り出し、それを使ってドアを開けた。 ドラキュラ 「別荘……?」 狼男 「うわぁー……これ床抜けない?踏んで大丈夫?」 死神 「落ちたら助けてやるよ。」 狼男 「………。」  ……そうなる前に確認をしているのだ。いや、きっと彼はそれを分かった上であえて嫌味を言ったのだろう。ムスっとした顔をしたウェアに構わず、他の三人が横を通り過ぎて家の中に入っていく。どの箇所を踏んでも床が軋み、棚の上のコップや寝室のベッド、家具や雑貨がその当時のまま残されている。まるで時が止まった部屋にいる様な、そんな不思議な感覚を味わえる家だ。 ミイラ男 「何か……すごいね!博物館みたい。」 ドラキュラ 「下手に触ると壊れちまいそうだな。」 狼男 「……ぉぉ俺はお前らが歩いた所しか踏まないからな!」  こういった場面でイヌ科ならではの臆病さが出てしまうウェア。そんな彼にジョシュアは「……ほらポチ、おいで。」とわざとらしい優しい声で手を差し出す。 狼男「………(怒)」    見かねたクリスが、ジョシュアに向かってィイー!っと牙を見せつけるウェアの手を掴み自分の腰に巻き付ける。 ミイラ男 「もう止めろよジョシュ、可哀そうじゃん。ウェア、俺に掴まってれば大丈夫だよ。」 狼男 「うん。」 ドラキュラ 「……クリス君?ダメだよ狼なんかに騙されちゃ!そうやってあの赤い服着た女の子は食べられちゃ…」 狼男 「馬鹿な吸血鬼は放っとこうクリス。」 ミイラ男 「うん、そうだね。あ……ここ凹むから気を付けて。」  完全に自分を無視をして仲むつまじく電車ごっこのように目の前を通り過ぎていく二人……。さて、どうしたものか。振り返ったジョシュアがリーパーを見つめた。 ドラキュラ 「……ダニエルくーん、僕たちもあれやろうよ。」 死神 「断る。」  馬鹿馬鹿しい、と呆れて顔を横に振るリーパーがリビングへと入って行った。こじんまりとした部屋の壁側にある大きな棚が一番この部屋で目立つ家具だ。その傍にちょこっと置かれた木製の椅子、そしての隣には小さなコーヒーテーブルが置かれている。 ドラキュラ 「……で、何なのこの家って。」 死神 「……昔に死んだ部下が住んでいた家だ。」  それを聞いた三人はそれ以降、言動を慎んだ。

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