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第四話 思い出の蓋を開けて 6

 あの時の誓いを忘れたことなどリーパーには無かった。どんなに汚れた手段を使おうと、どんなに卑怯者だと言われようと、痛くも痒くもない……それで彼女の幸せを守れるのなら。己は闇に住む死神であり、王子様などでは決してないのだから。 死神 「俺にとって、あいつよりも大事なものなんて無い。」 ドラキュラ 「はぁ……。」  そんな話を聞いた後で殴る気にもなれず、ジョシュアは握り締めていたリーパーのローブからその手をそっと放した。「外の空気を吸って来る」と家から出て行ったリーパー、やはり彼にも迷いや不安があるのだろう。それを聞いてやるのが友としての優しさなのか、それともあえて口を挟まず放っておいてやるのが思いやりなのか……ジョシュアには分からずにいる。 残された三人は引き続き家の中を見て回った。「目ん玉でも落っこってないかね。」階段を上がりながらそう呟くジョシュアの後ろでそれを聞いた二人がクスクスと笑う。ドアが開いたままの二階の寝室に入ると、ベッドがシワ一つなく綺麗に正されていた。ホコリがかぶってはいるが、何百年も空き家だったとは思えない程に状態が良い。 狼男 「あいつがたまに来て綺麗にしてたのかもね。」  「だろうな。」そう答えたジョシュアがクローゼットの戸を開ける。服もハンガーに掛かったまま吊る下がっている。まるで今でもこの家は、(あるじ)の帰りを待っているみたいだ。隣にいるクリスが一つずつハンガーを横にずらしていく……その手を止めたのは、薄茶色のシャツを見た時だった。この家に入った時から……いや、林の中でこの建物の外装を見た時から何となく感じていた不思議な感覚。どこか遠い記憶のような、何度も夢に出てきた光景のような、色んな景色の断片たちが、確かに重なる瞬間が幾度かあったのだ。それと共に酷くなる頭痛、思い出したい気持ちと、これ以上この痛みと闘いたくはない気持ちとが対峙する。 「大丈夫か?」隣にいるジョシュアが心配そうにクリスの顔を覗き込んだ。自らの額を抑えて苦笑いをし「うん」と答えるクリスに、「お前も外の空気吸っておいで」と優しい顔をして言った。クリスが部屋を出て行った後も、ジョシュアはウェアと二人で部屋の中を色々と眺めて回る。 狼男 「リーパーはさ、リリの事になると少し突っ走っちゃう所あるよね。」 ドラキュラ 「男なんて皆そんなもんだろ。」  先程からずっと気に掛けていた事が一つ、ウェアにはあった。それを口にするべきかどうか……ずっと迷っていたのだ。 狼男 「ジョシュ……。」 ドラキュラ 「………?」  本棚から一冊本を取り、表紙をめくったジョシュアがウェアの呼びかけに反応して顔を上げた。 狼男 「さっき……何でクリスのミドルネーム、伏せたの?」  ジョシュアはパタンっ…と本を閉じ、センスで周囲に誰もいない事を確認するとセンスと解き、こう言った。 ドラキュラ 「お前……忠犬になりきれるか?」 狼男 「………?」 ドラキュラ 「あいつ、クリスは……ただのミイラ男じゃない。」

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