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第五話 誇れるものばかりではないさ、それでもいい 2

「収獲はあったか?」  透き通った水が広間の脇に流れる幻想的な空間の中で、王座に座る男の薄紫色の輝く長髪がサラサラとなびく。その男は特に何も言わず、たった今側近が目の前に(ひざまず)く青年へ投げ掛けた質問の答えを待っている。 「いいえ、唯一把握している事は、例の化け物の封印を解くためにある物が必要だという事だけ……」 「……そんな事は当の昔から知っておる!!貴様はこの1000年の間何をしておったのだ、この役立たずの死に損ないが!お前を生かしておいている理由(わけ)を忘れるな!!」 「申し訳ございません。」  側近が青年に罵声を浴びせた後、男はようやく口を開いた。 「よいか?ケルスにだけは気を付けろ。決してこちらが探っている事を勘付かれるな。」 「肝に銘じて。」  青年を見下ろすその眼にあまり感情はこもっておらず、冷めた性格をしているのがよく分かる。 「あの者が無事か、知りたいのであろう?」 「…………。」  その問いに答えるべきかどうか……もしくは試されている?すぐには返答をせず、言葉を選ぶために思考を巡らせる青年を相変わらずその冷たい目つきで見つめる男。 「死神界があの化け物を所有している今、唯一対等に肩を並べるには化け物の封印の鍵をこちら手中に収めるのみ。すれば奴らとて我らを軽視する訳にもいかぬはず。お前に与えられた任務はあくまでもその鍵を見つけ出すための情報を集め、我に報告すること。鍵自体を見つけ出しここに持ち帰れとは言っておらん。あまり深く苦慮をする必要は無い。」 「………承知いたしました。」 「行け。」  その掛け声と共に青年は男の目の前から姿を消した。 「……本当によろしいのですか?死神などを当てにして……あやつがいつ寝返るかも分からんのですぞ。」 「……少し口が過ぎるんじゃないか?じいよ。この事に関して、お前からの助言を必要とはしておらん。」 「これはこれは、失敬しましたな。」  自立した考えを持ち、周りに流されることもなく、両足がいつでも地についているその姿は王として申し(ぶん)ない。強いて言うならばその変わった女の好みだけだろうか。スっと立ち上がり何も言わずに王室を出て行く男の背中を見つめ、側近は小さくため息をついた。

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