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第五話 誇れるものばかりではないさ、それでもいい 3

ミイラ男 「リーパー、またそそくさと死神界に帰っちゃったけど……忙しいのかな?」 ドラキュラ 「蘇生のことで頭が一杯なんだろ、きっと。」  ウィリアムの家を後にし、クリス達は旅路に戻った。次なる目的地はジョシュアの実家。馬車が進むにつれ、ジョシュアの表情が引きつっていく。それほどまでに家族に会うのが嫌なのだろうか?長年会っていないミイラの親族たちに会うとなれば、自分だったらその前の晩はワクワクして眠りにつけないだろうに。 御者 「これより先、しばらくは速度を速めます。しっかりとつかまっていて下さい。」  馬車の揺れが激しくなる。窓を少しだけ開け、外の様子を見ると何やら小さな集落の所々から煙が上がり、悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。 ミイラ男 「ちょっと……何かあったんじゃない?!助けに行かないの?」 ドラキュラ 「チビ達を連れてか?あんなの一々助けてたら命が幾つあって足りねぇよ。」 狼男 「最近はどこも物騒になってきたね……近い内に大きな戦にでもならないといいけど。」  もう後先を考えずに行動できる歳でもない。こういう場合、周りの意見を尊重すべきなのだろう。どこか腑に落ちない気持ちのまま、クリスは窓を閉めた。心地よく揺れる馬車の中、ジョシュアはウトウトと眠そうにしているクリスの肩を抱きしめ、額にキスをして彼の身体をそっと横にした。自分の腿の上に頭をのせ、スヤスヤと眠りにつくクリスの髪を優しく撫でる。 ドラキュラ 「おやすみ、クリス。」  揺れる馬車の中、誰かがこの額にキスをして……何故だろうか、この感覚は……初めてではない。 夢の中でクリスは部屋を歩き回っている。洗面所に辿り着き、鏡を見た……その顔はまだ幼き頃の自分。部屋の中を見渡して気が付いたが、それは先程見たあの家だった。何故だか夢の中の自分は家の構造を知っていて、身体が自然にあの棚から木箱を取り出した。自分がパパと呼んでいる茶色い髪のその男が、自分に向かって何かを喋っている……だがその声は聞こえず、口だけがパクパクと魚のように動いているのだ。一体何を伝えたいのだろうか?よく見るとその男は見覚えのあるローブを着ている。確か身近な誰かも同じような服を着ていた気がするのだ。 男が木箱の蓋を開けた。そして一番上のパズルのピースを一つだけ掴み、それを持つ手をゆっくりと窓辺に照らした………。そこでその夢は終わり、視界が段々と暗くなっていった。

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