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第五話 誇れるものばかりではないさ、それでもいい 6

「お帰りなさい、ボス。」  アジトに戻ったトニーを出迎えた手下の者達が彼のために扉を開けた。「あぁ」とだけ言いその横を通り過ぎオフィスへと入って行くトニーに続き、リリもその部屋に足を踏み入れた。光沢のある木製のインテリアで揃えられたシックなオフィスだ、中々に洒落ている。その若い見た目とは似つかわしくないセンスの良さに、リリは少しだけ彼を見直した。 トニー 「あのクリスという少年は、一体何者なんだ?」  ドスっと革製の椅子に座るトニーが目の前のデスクに腰掛けるリリにそう問い掛けた。爪をいじるフリをながら、リリはその返事を考える……怪しまれずに探りを入れるにはどんな応答がベストなのか、十分に頭を働かせる必要があった……場合によっては始末されかねないからだ。 魔女 「私もまだ知り合ったばかりだから詳しくは知らないわ。……唯一知っているのはミイラ男と人間のハーフだってことだけ。……少し疲れたわ、休ませてもらっていいかしら?」  そんな彼女のわがままを聞き入れ、トニーが手下の者にリリをゲストルームに案内するように命じた。その者達の後についていくリリが部屋を出る際、後ろからトニーが彼女の肩を掴んで言った。 トニー 「俺は必ずあの子を手に入れる……何が何でも。」  自らの下唇を味わうように舐めるトニーが、まるで未だに何かの余韻に浸っているかのようにそう呟いた。 魔女 「……ヴァンパイアの彼がいるからそれはきっと無理ね。」 トニー 「ライアンの弟のジョシュアか。……ダンテに居た頃に何度かターナー家の屋敷に出向いた事はあったが、パーティーにもディナーにも一切顔を出さない変わった少年だった。知っているか?あいつはヴァンパイアのくせに血が苦手なんだ。ライアンがいつもその事をうるさく言っていたな……あの兄弟はな、普通の兄弟ではないんだ……」  リリの耳元で、トニーはある言葉を口にした。 魔女 「………!!!」

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