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第五話 誇れるものばかりではないさ、それでもいい 8

 モズの総隊員数は24人。緊急時、ケルスの各メンバーにモズの隊員が二名ずつ護衛として付くためにこの数が守られている。ダニエルが入隊した際に、最年長であったリーという男がダニエルに席を譲って退役した。その男はその後、本部の中に秘密裏に設けられている機密情報部という一般の死神には知られていない組織で働いていた。 ダニエル 「久しぶりだな、シワの数が増えたか?」 リー 「……何をふざけた事を。元気そうで何よりだ。」  ホットコーヒーをすすりながらダニエルからの皮肉じみた挨拶をこなれた様にさらっと返す。 リー 「ケルスから何か言伝(ことづて)か?」 ダニエル 「………いや、個人的な話をしに来た。先日、俺の部下でもあるゴーダの現リーダー、カールの実の妹がモズの何者かに攫われ、カール自身それをおとりに脅迫をされた。」  ダニエルからの唐突な告白にも一切動じず、コクコクと頷きながら話に集中している様はさすがプロの情報部員だ。 リー 「カールからの要求は?」 ダニエル 「未だ未明だ、今の所明確なのはカールが俺を眠らせた事、目を覚ました俺は両手を縛られソルの牢獄の中にいた。その場に居たのはルドルフとドーナ。そのまま神堂に行きケルスと320年前のあの事件について話した。俺を誰がどうあの場所へ移動させたのかは聞かなかった。ケルスはモズの中にスパイが隠れていると察している……俺もそれには同感だ。きっとカールを脅した奴と同一犯だろう。同じモズの中に二名以上共犯者が居るとは思えん。恐らく単独か……」 リー 「それにしては少し詰めが甘いな。そこまで大胆な事をするにしてはあからさま過ぎる。相手はケルスだ………奴らもそこまで無知ではないだろう、何か策があるはず。」 ダニエル 「……単独犯ではないのか。モズの中に誰か出身があやふやな者は居たか?」 リー 「モズに入隊する際の条件の一つとして、周囲の環境は全て事細かく調べ上げられるはずだ。入隊の契約書にサインする際、もし仮にそいつが自らの情報を偽って記していた場合、その書類は神の懐にのせられた瞬間燃えるはず。それが起きなかったという事はその者が事実を記していた証だ。………何か引っ掛かるな。しばらくその件で調べてみるとしよう。何か分かればすぐに知らせる。」  神の懐とは特別な術を練って作られた巨大な書類棚で、審判協会の中心部に厳重な警備の元、設けられている。本部以上の組織に入る者は皆必ず契約書に直筆でサインをし、その書類がこの棚に置かれて燃えなかった場合、最終的に入隊が認められる。このように魔術が込められた特別な代物が死神界にはいくつも存在し、それらを総称して神具(しんぐ)と呼んでいる。 ダニエル 「神の懐か……懐かしい響きだ。あの噂は本当なのか?リー。」 リー 「ん?あぁ………記入日の数字を書き間違えて燃えちまったあの件な、本当にあった怖~い話だ。あの後ケルスに事情を説明している間生きている心地がしなかった。ドーナ様は初めから俺を信じて下さってな、真っ青な顔をして緊張する俺に、ドーナ様が気を使って場を和ませて下さった。『神の懐がちゃんと機能するのかどうか、確かめておきたかったのであろう?』ってな。」  そんなリーの体験談が可笑しくて、ダニエルはコーヒーを片手にケラケラと笑いながら「それで?」とその話の続きを待った。

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