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第五話 誇れるものばかりではないさ、それでもいい 10

 神堂に向かうためにダニエルが中庭の(そば)の渡り廊下を歩いていると、後ろからあのうるさく響く声が彼を呼び止めた。勘弁しろよ……と視界を上にして振り返ると、案の定その坊主頭の男はダニエルの想像していた人物であった。 バーロン 「急ぎの用か?」 ダニエル 「まぁな……何か用か?」 バーロン 「テクトに会いに行くぞ。」  テクトに会いに行く…?こんな猫の手も借りたい程忙しい時に何を言い出すかと思えば、密林を彷徨いあのミイラの老人の元へ遥々出向こうと言うのか?馬鹿げているにも程がある。 ダニエル 「……はぁ?一人で行ってこいよ、俺は今くっそ忙しいんだよ。」 バーロン 「蘇生の事でだ。」 ダニエル 「………!」  詳しい事情は告げぬままダニエルを連れて神堂に戻ると、バーロンは真っ直ぐにドーナの元へ行き、テクトに手紙を出すようにと頼んでいる。納得のいかぬ顔で後ろからバーロンを見つめるダニエルが、いい加減に我慢が出来ずに口を挟んだ。 ダニエル 「……おい、どうなってんだ?あの老人と蘇生と、何の関係がある?」 バーロン 「後で分かることだ、黙ってついて来い。」  その言葉にムスっとしたダニエルが口を閉じた。ふふ……と微笑みながらそんなダニエルを見つめるドーナ。そして彼女は再びバーロンに視線を戻し、「了解した」と告げた。 バーロン 「ルドルフは?」 ドーナ 「まだ今日は見ておらんが……まぁあやつのことだ、研究に明け暮れているのであろう。」 バーロン 「立つ前に一度奴と話しておかねばならん事がある。明日の朝戻ると他のメンバーに伝えておけ。」 ドーナ 「よかろう。ダニエルよ、お前は少し羽を伸ばしてくるとよい。今がお前にとって大切な時期なのは分かるが……だからこそだ。疲れ果てた心では他者の心など救えまい。」 ダニエル 「……そうだな。……あ!そうだ、さっきリーと話してきた。」  「そう言えば!」と言ってその名前を口にしたダニエル。それを聞いたドーナの目が嬉しそうに反応をした。 ドーナ 「元気にしておったか?」 ダニエル 「あぁ、相変わらずだ。スパイの事で少し探りを入れてもらう。ネスは来てるか?」 ドーナ 「あぁ、あやつなら先程……」  その時扉が開き、誰かが一人神堂に入ってきた。えんじ色のローブのフードからチラリと見せる黒い髪。 ネス 「おや、ダニーじゃないか。今日は珍しいメンツでお喋りしているんだね。」  そう言ってニコっと微笑んだ彼は、自分の席に着かずにこちらへと歩いてきた。「お昼でもどうだい?」彼からのそんな誘いに、「私はもう済ませた。」と言って断ったドーナ以外がのった。ルドルフの屋敷に用があるバーロンに考慮して、ネスは二人と共に下界に降りた。

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