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第五話 誇れるものばかりではないさ、それでもいい 11
バーロン
「身元不明の犯人は見つかったか?」
席につくと被っていたフードを後ろに降ろした。彼もカールと同様、あまりフードを好まない。死神といえば皆、深く被ったフードがその者の顔を上部隠している姿を思い浮かべるが、実際にはフードをあまり好まない者が多いのだ。視界を遮る布切れが鬱陶しくてたまらないためだ。外を出歩く時は極力顔を隠すために着用するが、これも義務ではない。あくまで各々の判断の上での行動なのだ。
向かいに座るバーロンに続いて、ネスもそのフードを外した。
ネス
「いや、まだ確信するには証拠が不足しているね。その人物の何となくの目星は付いているが……契約書が神の懐を通ったという事実がどうしても引っ掛かってしまう。あの神具を操る事も、欺くことも不可能。さて、どうしたもんかね。」
テーブル席に座る三人の元にウェイターが注文を聞きに来た。二人の着ているローブを見た瞬間、ウェイターの行動が急にぎこちなくなる。その腕に刺繍されているケルスのマーク……それを見た店内の客や他の従業員達も皆そわそわとし出した。運ばれてきた水を一口飲んだネスが「どれどれ……」とメニュー表を開き、二人に尋ねた。
ネス
「ダニー、君はどれにするんだい?」
ダニエル
「ウサギ肉のステーキセットかな。」
バーロン
「旨そうだな、俺もそれを頼もう。」
ネス
「じゃあそれを三つでいいね。」
静かに挙がったネスの手を見たウェイターが飛んできた。彼が記入する注文票を持つ手が緊張してカタカタと震えている……。
ネス
「おやおや、君、大丈夫かい?そんなに気を張らないでおくれ、僕たちはただ食事をしに来ただけだから。」
ウェイター
「は、はい……!すみません!!」
ネス
「何だかこっちまで緊張しちゃうね(笑)ウサギ肉のステーキセットを三つ頼むよ。」
注文票を閉じ、急いで厨房に掛けて行くウェイターをハハハっと笑顔で見送るネスがテーブルの上で手を組んだ。
バーロン
「お主も我々と共に奴の屋敷に来ればよい。」
ネス
「……うん、それも悪くないね。僕の名前は確実に出入り禁止のブラックリストに載っているだろうけどね。」
ダニエル
「あんたはルドルフとは仲が良い方だろ?何でだ?」
ネス
「行く度に何かしら彼の実験道具で遊んでしまうからだよ。いやぁ興味深いものが有り溢れているもんだから、ついね。」
バーロン
「全く……どうにかならんのか、その赤子のような好奇心は。」
呆れたバーロンが目頭を擦りながらそう呟いた。
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