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第五話 誇れるものばかりではないさ、それでもいい 12

ネス 「うん、中々美味だね。ダニーはウサギ肉が好きなのかい?」  肉を一口サイズに切り分け、熱い鉄板の端に置かれたソースに一度浸し、それを口に放った。柔らかな肉質から噛むたびに(にじ)み出る肉汁が口内を満たし、ハーブとバターの香りがその味を上手く引き立てている。 ダニエル 「別にウサギじゃなくてもいいけど、肉は好きだな。」 バーロン 「奴の元に辿り着くまでの道中で出くわすのはせいぜい蛇かワニくらいだろうな、ワニの肉は意外といけるぞ。」 ネス 「……爬虫類の肉は僕は遠慮しておくよ。」  引きつった笑みでそう返したネスはフォークを食器の上に置き、用意された布巾で口を拭いた。食事を済ませ席を立つ三人。「僕がもつよ。」とネスが金貨をテーブルの上に置いた。 ウェイター 「少しご勘定が多いですが……」  そう言って素直に余分な分の金貨をネスに差し出すウェイターの手を包み、その手をそっと彼の方に押し返した。 ネス 「それは君へのチップだよ、親切にしてくれてありがとうね。ご馳走様。」  ウェイターが深々と頭を下げて店先まで三人を見送る。「旨かったなこの店。」もう一度後ろを振り返り店の名前を確かめるダニエルに他の二人も頷いた。……すると二人が急に足を止め、何やら真剣な面持ちで地面を凝視している。 ダニエル 「……どうした?」 バーロン 「神堂に戻るぞ。」 ネス 「急ごう。」 ダニエル 「………?」  何か緊急な用事がある時、ケルスがメンバー同士で念を送り合うことがある。この時も他のメンバーからの念を二人は感じ取ったのだ。  急な招集が掛かり、ケルス達が神堂に集まってくる。各々が席に着き、十二の椅子が次々に埋まっていく。 「ネスはどうした?……バーロンの姿も見えんが。」 ドーナ 「二人は今ダニエルと外出をしておる。念は届いたはずだ、じきに戻るであろう。」 「この件、例の内通者と無関係ではなかろう。……やはりあの化け物が狙いか。」 ドーナ 「確信はしきれぬが……恐らくは。」  扉が開き、初めに入ってきたネスが「遅くなってしまって悪かったね。」と早足で席に着いた。バーロンもその後に続き神堂に入り、自分の席へと向かう。最期に入ったダニエルは扉の隅で腕を組み、壁に寄りかかった。 ネス 「遺体が発見されたのは?」  「遺体だと……?」その言葉を聞いたダニエルは胸騒ぎがしてならない。その遺体がカールの妹である可能性も十分にあるからだ。 ドーナ 「ペッツの建物のすぐ裏だ。草むらの上に無造作に捨てられていたそうだ。ペッツの一人がそれを発見し、本部に報告をしたと聞いた。発見者は既にジュディから調べを受け、白だと判明している。」 バーロン 「この件が我々の議題に挙がるほどになるその理由は?」 グリフィン 「その遺体がモーリスの者であったからだ。」 ネス 「………なるほどね、それは一大事だ。モーリスに使いを出そう。今の状況下で彼らと敵対国になることは避けたい。」 「同意だ。」 ドーナ 「モズに命ずるか?」 ネス 「………いや、それでは向こうも納得しきれぬであろう……何だって死者が出てしまったのだからね。僕が行く。ドーナ、グリフィン、他の皆、僕が留守にしている間、死神界を頼んだよ。」 グリフィン 「任せておけ。」 バーロン 「ルドルフや、丁度良かった。お主の屋敷へと出向く所だったのだ。」  バーロンとは離れた位置にあるルドルフの席。自身の席を立ったバーロンが彼のすぐ隣に瞬間移動をし、彼の耳元で何かを話している。コクリコクリと頷くルドルフ、そして彼も何かをバーロンに伝えると、バーロンは再び瞬間移動をしてダニエルの目の前に現れた。 バーロン 「行くぞ。」  特に何も説明をせずにそれだけ言って扉を開け、神堂を出て行くバーロン。「どうするつもりだ。」などと問いただした所で返ってくる返事は「時期に分かる」だろう。無駄話を好まない点では共感できるが、飼い主のように振舞う所はどうも気に食わない。 ダニエル 「行くって、どこにだよ。」  中央階段を早足で降りるバーロンに続いて階段を駆け降りる。 バーロン 「決まっているであろう、テクトの元へだ。」 ダニエル 「いいのか?緊急事態なんだろ?」 バーロン 「他の者が解決する。」

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