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第六話 その瞬間まであと一歩 3

 「仕方あるまい。」立ち上がりそう言ったバーロン。結局何の成果も無いまま、休憩を取った二人は死神界へと戻ることにした。その道中でバーロンはダニエルに幾つか蘇生の事で提案をした。 バーロン 「お主の思い者には悪いが……今はウィリアムを蘇生する事に専念すべきだろう。我々ケルスも他にやらねばならぬ事が山程ある。」 ダニエル 「あぁ、そうだな……。」  理想と現実とは、いつもこう噛み合わぬもの。だが実際にあのケルスがウィリアムとアレンのためにここまで動いてくれたのは正直想定外であった。 バーロン 「ウィリアムの蘇生に関してはルドルフが(にな)う。準備は出来ているはずだ、お前次第……ということだ。」  ……だが本当に、そんな事が可能なのか?未だに信じ難い話だ、300年前に死んだ者を蘇らせるなど。 心の準備ならばとうに出来ている。彼を生き返らせることが出来るのならば、こんな足などくれてやろう。「……リリも同じことをするだろうか?」そんな疑問が一瞬頭に浮かんだのだ。そしてフっとそんな馬鹿げた疑問を自らがあざ笑った。あの女がそんなことを躊躇うはずが無いのは分かり切っているからだ。 ダニエル 「俺はこのままルドルフの屋敷に行く。先に戻っていてくれ。」  迷いの無いその眼差しから、バーロンはダニエルの意志の強さを確かに感じ取ったのだ。ここで背中を押せば、ドーナは悲しむだろうか? バーロン 「………わかった。」  覚悟を決め違う道を一人行くダニエル。あんなにピーピー泣いていた赤子が、本当に大きくなったものだ。たくましくなった彼の背中をしばらく眺め、そっと目頭の水滴を親指で拭き取ると、バーロンは帰路に戻った。

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