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第六話 その瞬間まであと一歩 9

 ギギギ……。きしむ音を不愉快に響かせながら木の扉が開く。鼻をつく薬品の匂いに、ダニエルは顔を歪めた。 ダニエル 「……ひでぇ匂いだ。調合に失敗でもしたのか?」  せわしなく試験管を振っては他の容器にそれを移し、茶色く乾燥した植物の葉をほんの少しだけ指先で潰して液体に混ぜた。後ろに居るダニエルに振り向きもせずに、作業を続けながら返答をする。 ルドルフ 「遅かったな、怖気づいたのか?」 ダニエル 「どの口が言うか。言っとくが俺はまだあんたを許しちゃいねぇからな。」 ルドルフ 「勝手に言うておれ、生意気な小僧が。準備は出来ておる……と言いたい所だが、一つだけ材料が不足している。」 ダニエル 「だから俺がここに来たんだろ、手は術を使うのに必要だ……足にしてくれ。」 ルドルフ 「……そうではない、他にもう一つ必要なものが有るのだ。」 ダニエル 「………?」 ルドルフ 「不迷虫(ふめいちゅう)と言う虫だ。少し変わった虫でな、何百里をも離れた場所から迷わずに元居た巣へと戻れると言われておる。」 ダニエル 「……虫?虫なんかが何の役に立つんだよ、ただの味付けのために時間を無駄にするつもりはない……今すぐ実行してくれ。」 ルドルフ 「お主のその減らず口はグリフィンやバーロンから譲り受けたのだろうな。」  こちらに振り向きもせずに話し続ける所も気に食わないが、それよりもあの頑固オヤジ共と同類にされる事の方が腹立たしい。ダニエルがムスっとした表情でルドルフの背中を見つめる。 ルドルフ 「操り人形が欲しいのか?」 ダニエル 「……あ?何の事だ。」 ルドルフ 「我々は『蘇生』など言っているが厳密にはそうではない。……そんな事ができれば死神界は破滅しようて。我らの道理は何があろうと変わりはせん。それは我々死神の遥か祖先の者達が既に固く誓いこの血に流した定め。死んだ者を復活させるなどあってはならぬのだ。」  ……今更何を言っている?そんな事は初めから皆が思っていた事。そのために深い疑問を抱き、そしてそんな神の技のような事を可能にするルドルフを見直したのではないか。……また、欺かれたのか? ルドルフ 「良いか?よく聞け。本来この術を他の者に使用、またはそれを見せる事は固く禁じられている。これは規定などではなく暗黙の了解でだ。……我々はウィリアムを蘇生するのではなく、新しく作り直すのだ。」 ダニエル 「………!!!」 ルドルフ 「………ルシファーもその一人。」

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