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第六話 その瞬間まであと一歩 11

ダニエル 「……何だよ、ついてくんじゃねぇよ。」 ルシファー 「……………。」  どこまでも青々と緑が広がる草原に吹き抜けるそよ風が、野に咲く花の花びらをなびかせる。前を歩くダニエルの後ろを少しだけ距離を空け、その距離を保ちながらルシファーがついて歩く。 ダニエル 「……何だよ、見てんじゃねぇよ。」 ルシファー 「……………。」  何の返答もせずに黙って彼の背中を見つめるルシファー。大きく開かれたその目は滅多に瞬きをせず、歩く際に手を振ることも無い。……完成度は非常に高いが、やはりそういった面では本物の死神というにはまだ足りぬ部分がある。不気味にこちらに向けられるルシファーの視線を鬱陶しく感じたダニエルが言った。 ダニエル 「……んだよお前気色悪ぃな、あっち行け!」  すると、一言も喋らずにいたルシファーがこの時ようやく口を開いた。 ルシファー 「………お前、うるサイ………。」 ダニエル 「………(怒)」  ウィリアムの蘇生に必要だとされる不迷虫。未だにそれが事実なのか信じられぬまま、出発前にルドルフから説明された内容を思い返しながらダニエルはその虫を探し続ける。  - 出発前 - ルドルフ 「お主もルシファーのような操り人形が欲しいのか?それならば虫は不要だ。今からでも術を実行してやる。」 ダニエル 「……だからそれ、どういう意味だよ。」 ルドルフ 「先程も申した通り、これは奴を生き返らせるのではなく新しく作り出すのだ。……その意味が分からぬのか?」  薬品漬けになった数々の小動物や虫、そして何かの臓器などが入った容器を並べ替え、棚の整理をするルドルフ。そんな彼からの質問にダニエルが首を傾げる。 ルドルフ 「記憶を持たぬのだよ。誕生したウィリアムの脳は生まれてきたばかりの赤子のように一から物事を覚え始めるのだ。……無論、前世の記憶など持ち越しはせぬ。」 ダニエル 「なっ……それじゃ意味が無ぇじゃねぇか!って事はアレンにも同じ事が起こるんだろ?……姉貴の事なんか何も覚えちゃいねぇってのかよ!!」  鳥の足が入った容器をその手に持ちながら、ルドルフがこちらに振り返り返答した。 ルドルフ 「……左様。」  ならばそもそも蘇生など、する意味すら無いのでは?今のまま時より過去を悔やみ生きていく方がまだマシなのでは?深刻な表情で考えるダニエルの顔を、ルシファーがそっと覗き込んだ。 ダニエル 「……わっ……んだよ!脅かすな!」 ルシファー 「……………。」  首を傾げ、ただじーっと見つめてくるルシファー。標本や薬品漬けの臓器に囲まれた部屋で、不気味な人形からは凝視され……これではまるでお化け屋敷だ。 ルドルフ 「そやつのようなウィリアムが欲しいのか?」 ダニエル 「…………。」  見た目は完璧な死神だ。フードを外していても、生きている者との違いを見つけられない。だが、頭脳はお世辞にも高いとは言えない。こんなアレンの姿を見たリリは、一体どう思うだろうか。蘇らせたという大きな期待と歓喜の直後にまた新たな絶望を与えてしまうのではないだろうか?やはり、もうこのまま二人共……。 ルドルフ 「故にお主には不迷虫が必要なのだよ。」 ダニエル 「その不迷虫ってのは何なんだ?ただ記憶力が良いってだけの虫なのか?定期的に匂いでも振り撒いておいて、その匂いを辿って家に帰ってるんじゃないのか?」 ルドルフ 「あの虫にはな……」  ふふふ……。と不気味な笑みを浮かべ、「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりにルドルフが語り出した。 ルドルフ 「……知能があるのだ。」

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