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第七話 虹色の雫 6

 -320年前-  ザっザっザ……。小石が散らばる洞窟を走るその男の足音が洞窟内に反響する。男は両手でふんわりと包み、手の平の上の何かを守っているように見える。 ウィリアム 「………まだ死ぬな。もう少しだから、頑張るんだ。」  突き当りに辿り着くと、その光景にウィリアムは息を呑んだ。すると次の瞬間……ドスン!!と天井から巨大な岩のような虫が地面に着地した。その怪物は虹色に光る瞳でウィリアムをじっと見つめ、言葉を発した。 「………貴様、何者だ。」 ウィリアム 「……俺の名はウィリアム、死神だ。悪いがこの子を家族の元へ返してくれないか?」 「…………?」  ある物を探してこの辺りを散策していたウィリアム。そんな彼は一息つくために岩の木陰に腰を降ろした。「ブーン……」耳元で虫が羽ばたく音が絶え間なく聞こえる。鬱陶しい……と音の方を見ると、羽が折れた虫が片方だけの羽を駆使して岩の隙間に入ろうと何度もめげずに挑戦しているではないか。そんな健気な姿に感服したウィリアムはその虫をそっと手ですくい上げ、洞穴の中へと瞬間移動した。 入って直ぐに虫を地面に放したウィリアムが「これで一先ず安心だ。」と再び外に戻ろうと立ち上がると、天井からぶら下がっていたコウモリが隙を見てその虫を掴んだ。光沢のある表面のお陰でコウモリの足から滑り落ちた虫は、そのままポチャン……と水溜りの中へと消えた。それを見たウィリアムが急いで水の中からすくい上げ様子を見ると、虫はまだ微かに生きている。どうしたものか、このままではまず助からないだろう。すると目の前を同じ見た目をした虫がブーン……と飛んでいき洞窟の中へと飛び去って行った。「もしかしたら近くに巣があるのかもしれない。」ウィリアムは虫を手の平で包み、走り出したのだ………。  事情を説明したウィリアムの元にドス……ドス……とあの怪物が近寄ってきた。どうやら信用してもらえなかったようだ、ならば抗戦するべきか?ウィリアムは虫を肩にのせ、手の平を構えた。 「そうであったか、礼を言う。……ゆっくりしていきなさい。」 ウィリアム 「俺の言う事を信用するのか?」 「信用?いいや、少し違うな……確認したのだ。」 ウィリアム 「…………?」  そう言うと、警戒心を解いたようにその怪物はこちらに背中を向け歩きだした。そして咳ばらいをしながら後ろにいるウィリアムに背を向けたまま話し出す。 「……この洞窟とここに生きる者達を長らく守ってきた、我が名はコビャック。お主が助けたその虫はエメラルド。そなた等は不迷虫などと呼んでおるらしいがな。迷わずに巣まで帰れる記憶力の高い虫、奇跡の虫……そんな噂が飛び交っているようだがな、そうではない。」  ウィリアムが肩に手をのせると、エメラルドが彼の手に歩いて移動した。よくよく観察してみると、名前の通り黒い光沢の中に宝石のような深緑色が隠れている……何とも綺麗な虫だ。ふとエメラルドと目が合ったような気がする。つぶらなその瞳の見つめていると、ウィリアムの脳内に声が響いた……。 「ありがとう………。」 ウィリアム 「…………!!!」  驚いてつい、エメラルドを落としてしまいそうになった。今、何が起きたのか……? コビャック 「その虫はな……知能を持つのだ。」 ウィリアム 「……飛んだり蜜を吸ったりすることを言っているのか?」  その問い掛けに、コビャックは地面を揺らす声でガハガハと笑い出した。 コビャック 「それは本能だ。ほとんどの虫はただ本能に従い生きているが、エメラルドのような特殊な虫は思考を持つ。……要は己の意志で考える事が出来るのだ、我々と同じようにな。」  ……信じられない話だ。虫が思考を持つ?こんなに小さな体でか?それでは先程この頭の中に響いた声は、もしや……? ウィリアムがもう一度エメラルドをじっと見つめた。 「………信じてくれるかい?」 ウィリアム 「………しゃ、喋った!!!」  いや、正確には脳内に声が直接響いたと言った方が近いだろう。実際に虫の口元が言葉と共に連動している訳ではない。一体どういった仕組みになっているのか……。ウィリアムは顎を抑え、興味深くエメラルドを観察した。

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