3 / 74
第一話 その子の名は、ダニエル 2
十二の椅子が大きく楕円 を描くように広く間隔を空け並べられ、各椅子に座るえんじ色のローブを身に纏う者たち。天井はどこまでも高く、暗くて一体どこまで続いているのかは確認できない。ケルスが依頼の講義や私事以外で過ごす場所でもあるこの部屋は、神堂 と呼ばれている。そんな神堂に響き渡る赤子の泣き声……。
「うぎゃぁあーーー!!」
「そのちんちくりんをどうにかせんか!……全く、赤子の面倒など……死神界の最上位ケルスとは聞いて呆れる!」
ドーナ
「おやおや、うるさい坊主頭なこと………ダニエル、お前の方が毛が多いな。」
「失敬な!!(怒)」
聞いていた者たちがゲラゲラと笑う声が神堂に響く。遅れて到着したネスがその笑い声を聞いて微笑みながら自分の席に着いた。
ネス
「楽しそうにしているね、僕も仲間に入れておくれよ。」
「ドーナの奴、何のつもりか知らんが赤子などを拾ってきよった!」
ネス
「ほう……それは興味深い。」
ドーナ
「モズに依頼をするつもりだったが……グリフィンがどうしてもその手で送ってやりたいと申してな。私もついて行ったのだが………駄目だな、やはりああいう場面で冷酷になりきれなんだ。子を見捨てた所で死んだ女がそれを見ている訳でもない。約束など、生きている者が結ぶもの。死んでしまえばそんなもの、何の意味も持たないのだから………」
ネス
「それはどうかな?」
ドーナ
「……………?」
ネス
「互いに死んでしまえば、確かにその約束は両者の屍と共に無になるであろう。……だが片割れが生きている場合、その約束はその後その者の生き甲斐となり得る。それもまた事実だ。」
ドーナ
「………いかにも。」
そんなネスの説得に、聞いていた他の者も納得して頷いた。
ネス
「バーロンよ、お前にだって一度はこんな時期があったのだ。今のお前があるのはその時期のお前に食料を与え、寝床を与え、見守っていてくれた者が居たから。それはきっとこの僕にも、ドーナにも、そしてここにいるケルスのメンバーや他の死神もみな同様、ならば今度は大人になった我々がこの者達にそれを与えてやる番なのだ。そうやって文明は引き継がれていくのだろう………たった一代でもそれを怠ってしまえばその行く末は滅びのみ。違うかな?」
バーロン
「くだらん……勝手にしろ!」
ドーナ
「礼を言うぞ、ネスよ。」
ネス
「うむ。しかしまぁ……この子の母と、その他十一人の父がケルスとは……これ程までに頼もしい親を持つ子もそう居ないだろうね。(笑)」
ガタンっと分厚い石の扉をまるでベニヤ板の様に片手で軽々と開け、グリフィンが神堂に入ってきた。
グリフィン
「父とその他十人の叔父、の間違いであろう?」
ネス
「ふふふ……何だい?それじゃあまるで、父親は君が独占している様じゃないか。」
グリフィン
「当たり前だ、ドーナは誰にもやらん。」
ドーナ
「我々は赤子の話をしているのだ。」
グリフィン
「わ……分かっておるわ……!!(怒)」
顔を赤らめ椅子に座るグリフィンを、他のメンバーが冷やかして笑った。
ともだちにシェアしよう!

