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第一話 その子の名は、ダニエル 8
……それからまた時は経ち、ダニエルは学業を修了し、もうほとんど大人の男と呼べるような歳になっていた。
珍しくかしこまった表情で、話があるから全員集まってくれとネスに告げる。ネスは他のメンバーにその事を伝達し、息子同然のダニエルからの招集に何事かと神堂に駆け付けるケルス。各々が席に着いたところでダニエルが口を開いた。
ダニエル
「………俺は組織に入る。」
ネス
「………ほう。」
グリフィン
「やめておけ。」
ドーナ
「私も反対だ。」
一番歓迎してくれると思っていた二人から真っ先に反対された。「何でだ?」少し機嫌が悪そうにドーナを見つめてダニエルがそう言った。
ドーナ
「お前の死に顔を見たくはない。」
ダニエル
「そんな簡単に死ぬつもりはねぇけど。」
グリフィン
「どこの組織に興味があるんだ?」
ダニエル
「………ペッツ。」
バーロン
「っケ!んーな端くれの組織に入りたいなど………馬鹿馬鹿しい!!」
Preserve the Soul、通称PETS 、魂の保護団体。この団体の主な仕事内容は自殺者の救済………要は死ぬことを思いとどまらせるのだ。ふざけた様に聞こえるが、毎年の自殺者数は事故や殺人などで命を落とす者の数をはるかに上回っているのだ。この数を減らす、すなわちその分だけ人口の数が保たれるのは重大な問題であるためにこのような組織が作られた。そんなペッツは『死神』という魂を取る怪物の観念を翻 すような組織だ。
ドーナ
「訳があるのだろう?聞かせてはくれぬか……?」
ダニエル
「学校でいつもつるんでた奴がいて、すげぇ明るい奴だったんだ。周りの奴らも皆、お前は悩み事なんか無さそうだよなって笑い合ってた………そいつも笑ってたんだよ。でも卒業式にそいつの姿は無かった。全部一人で抱え込んで死んじまった。俺にも、誰にも打ち明けないまま……」
ネス
「それは気の毒だったね。」
グリフィン
「性格の問題だ。たとえその時誰かに救われていたとしても、そやつはきっとどの道いつかまた同じことを繰り返していただろう。お前が責任を感じるとこは無い。」
ダニエル
「救ってやれたかもしれねぇだろ……!」
グリフィン
「そやつがお前に助けを求めたのか?そやつが心を病んだ理由はお前にあったのか?」
ダニエル
「………。」
ダニエルは黙ったまま首を横に振った。
グリフィン
「お前にとってそやつは大事な存在であったかもしれぬ。だがそやつからしたらお前など、ただ気を掛けてくれている数ある中の一人程度の認識だったのだろう。気を病んでいる者の頭の中は我々健常者のそれとは大いに異なっている。我々から見れば清々 しく晴れ渡る綺麗な空であっても、奴らから見ればそれはただ己の存在の小ささを物語る醜き空。受け止め方がそれほどに異なるのだ。目に見えるもの全てをそのように受け取ってみよ、自分に笑いかける人々はきっと心の中で己のことをあざ笑っているに違いない。頬張る肉も、自分がこうして食さなければ今頃生きていた。何もかもを悲観的に受け止め、答えなどない事柄について果てもなく悩み続け、眠らず、食さず、体内時計が狂い、体温は落ち、生きる希望を失う……………それをお前がどう救おうと言うのだ?」
ダニエル
「……………。」
ドーナ
「お前のせいではない、お前まで気を病むでない。その者も今頃きっと楽になれたのであろう。果てしなく続く苦悩の中で、お主等友達はたとえ一瞬でもそやつの苦しみを暖和してやったことには違いないのだよ、ダニエル。」
バーロン
「我々のコネを使えばゴーダに入る事も容易。もう少し賢く生きてみよ、小僧。」
ダニエル
「あんたらの権力を使う気はない。一から自分の力でのし上がって見せる。」
ネス
「いい心構えだ。君が入りたいのはペッツで違い無いんだね?」
ダニエル
「あぁ。」
ネス
「承知した、僕から話をつけておこう。」
ダニエル
「入団試験は受けるつもりだ、余計なことはしなくていい。言った通り、俺はあんたらの権力を武器に使うつもりはない。」
それを聞いたネスがクスクスと笑い出した。
ネス
「我らケルスが一体何年君のことを見守ってきたと思う?」
ダニエル
「………?」
ネス
「ペッツにちゃんと話をつけておかないとね………君の時だけ難易度を大幅にあげてくれ、と。」
息子の成長をしみじみと感じ、ケルスのメンバーが誇らしげにダニエルを見つめる。
グリフィン
「健闘を祈る………我が息子よ。」
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