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強くて弱い若頭

 鐘崎(かねさき)組の若頭――彼は組長の一人息子で、名を遼二(りょうじ)という。歳は三十を越したところだ。  この若頭は強い。  喧嘩――というのには普段そうそう縁がないが、いわゆる裏の世界絡みでの戦闘体制下では負けなしといえるだろう。  体術は空手を中心に巧みな技を使い分け、相手が屈強な傭兵であっても一対一なら苦ではない。数人が束になってかかってきたとしても同様だ。多少頭脳戦を強いられるにせよ、少し手合わせをすれば即座に相手の得手不得手を見抜いて対応できる。  また、射撃の腕前も完璧だ。その他、剣術も彼を教えた師範には及ばないものの、達人級といえるだろう。とにかく強い――としかたとえようがないのは事実である。  今の時代、裏の世界でも必須といえるIT関係にもめちゃくちゃ強い。ハイテク機器を屈指しての情報収集から敵を倒す為のトラップに至るまで、専門家顔負けの知識と扱いで任務に挑む。  外国語にも強く、母国語である日本語の他には広東語、英語、ドイツ語は流暢にこなす。フランス語、イタリア語なども簡単な日常会話程度ならいける。  また、車やバイクの扱いも非常に巧い。  と、まあどこから見ても出来過ぎといえるほどに強い男なのだ。  そして″強い″のは武術の面だけではない。  彼の愛する者への想いは、とにかく一途で、ものすごく濃くて強いのだ。  ゆえに情欲も激しい。伴侶の紫月(しづき)がぐったりとさせられるまで抱き潰してしまう――などというのは毎度のことである。  そんな若頭だが、てんでダメな部分もある。  弱点――とは少々違うかも知れないが、とにかく傍で見ていても『もう少し上手く立ち回れよ』と、つい小言が出てしまうくらいダメダメな部分も多いのだ。  まず、何を置いても女性の扱いがものすごく下手だという点だ。  彼は物心つく前に両親が離縁していて、母親というのを知らずに育った。父と組の厳つい男連中の手で育てられた彼には、いわゆる女心というのがよく分からないのだ。  下世話な話だが、月のものに対しても免疫がまるでない。母親はもとより、姉妹でもいれば幾分違うのだろうが、側で具体的に見聞きしたことがない為に、そういう時の女性の辛さや憂鬱さというのもよく分からないのである。  と同時に、心理面でも扱いが下手だ。例えば女心と秋の空――などというのも彼の頭の中では『はてな』マークがグルグル回るほどだ。  ゆえにデリカシーの無い男――とか、愛想の無い男だという印象を持たれることも多い。  見た目が男前だから、最初は容姿に引かれて群がってくる女性たちにもすぐに呆れられるか、あるいは『ちょっと顔がいいからって天狗になってんじゃないわよ!』という調子で恨まれることもしばしばだ。  ストーカー的な感情を持たれたり、それがこじれて挙句は逆恨みに遭ったりすることも皆無ではなく、例えそうなってもますます上手く対処できないので、しまいには周囲を巻き込んで泥沼化――などという悲惨な目に遭ったこともままある。  そして、特筆すべきは根底にある優しさだ。  口下手で寡黙な印象から、″優しい″という言葉とは結びつかないかも知れないが、彼は非常に優しい心根の持ち主といえる。それゆえ、普通はそんなことで騙されないだろうというような場合でも、案外コロッと騙されたり嵌められたりもする。  とりわけ自身の危機には無頓着で、少々手酷い目に遭うことも多い。伴侶の紫月が理不尽な目に遭わされたりすれば修羅にも夜叉にも平気でなれる男だが、自身のこととなるとさほど響かないというか、結構えらい目を食らってもケロッとしているようなところもある――なんとも不思議な性格といえる。  ある面では向かうところ敵なしというくらい屈強で最強で、だが反面では呆れるほどに弱い男。  そんな若頭を理解し、いいところも悪いところも受け入れて包み込んでくれるのは、彼がこの世で己よりも大切と言い切る伴侶の紫月だ。  そして同じく強さも弱さも理解してくれて、背中を預け合えるほどの友もいる。周焔(ジォウ イェン)だ。彼とは似て非なる持ち味ながら、互いを生涯の相棒として固い絆で結ばれている。  愛する伴侶と頼れる友が在ればこそ、今日もまた危険と隣り合わせともいえる裏の世界の任務に励むことができる――鐘崎遼二にとってそんな人々との絆が生きる糧なのである。 強くて弱い若頭 - FIN -

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